換気設備 2024.11.28

必要換気量とは?建築基準法に則った業種別での換気量や設備について解説

必要換気量とは?建築基準法に則った業種別での換気量や設備について解説
この記事の内容

必要換気量を正確に把握し確保することは、建築基準法などの法令遵守のみならず、在室者の健康維持や集中力向上に直結します。基本となるのは一人あたり毎時30立方メートルという基準ですが、床面積や業種ごとの特性に応じた微調整が必要です。

実務においては、既存設備の風量実測やCO2センサーによる現状把握を行い、空調負荷を抑えられる「全熱交換器」などの高機能設備を組み合わせることが、コストを抑えつつ快適な環境を維持する最適解となります。

 

店舗やオフィスの新設、あるいはリニューアルを検討する際、空調の効き具合と同様に重要なのが換気設計です。しかし、目に見えない空気を扱う換気は具体的にどの程度の入れ替えが必要なのか、また自社の設備が法的な基準を満たしているのか、確信を持てない実務者の方も多いのではないでしょうか。

換気不足はシックハウス症候群や感染症リスクを高めるだけでなく、二酸化炭素(CO2)濃度の過度な上昇による生産性の低下を招きます。

建築基準法では全ての在室者が健康的に過ごせるよう、厳格な換気基準が定められています。この記事では一人あたりの必要換気量の算出根拠から、業種別の具体的な設定実務、そして冷暖房効率を損なわずに空気の質を劇的に改善する高機能換気設備の活用法までを分かりやすく解説します。

必要換気量を決定づける最大の法的根拠は建築基準法施行令第129条の2の6にあります。この法規では、室内の二酸化炭素(CO2)濃度を1,000ppm(0.1%)以下に維持することが義務付けられています。

人が呼吸によって排出するCO2を一定の濃度以下に薄めるためには、外から新鮮な空気を取り入れ、内側から汚れた空気を排出する循環が不可欠です。この循環に必要な空気の「量」が、設計の出発点となります。

占有人数から導き出す一人あたり30㎥/hの基準

実務で最も広く用いられる基準は成人一人が通常活動時(事務作業等)に排出する二酸化炭素量を基準にした一人あたり毎時30立方メートル(30㎥/h)という数値です。これは、外気のCO2濃度を約400ppmと仮定し、室内の濃度を1,000ppm以下に保つために必要な希釈風量として算出されています。

在室者の活動度別必要換気量の目安

活動の種類 活動強度の例 推奨換気量(1人あたり)
軽作業 事務作業、読書、座談 約30㎥/h
中程度の活動 立ち仕事、軽飲食、歩行 約35〜40㎥/h
激しい活動 ジム、ダンス、重労働 約50㎥/h以上

床面積と一人あたりの占有面積を用いた収容人数

正確な在室人数が予測できない設計段階では、床面積に基づいて人数を推定する手法が一般的です。建築基準法では、部屋の用途ごとに一人あたりの占有面積が定められており、これによって必要換気量の合計を算出します。

たとえば、100㎡のオフィスで一人あたり5㎡の占有面積とする場合、想定人数は20人となり、20人 × 30㎥/h = 600㎥/hの換気能力が必要になります。

図:床面積(A)÷ 一人あたりの占有面積 = 収容人数(n)の計算イメージ

 

24時間換気システム義務化とシックハウス対策

2003年の建築基準法改正以降、全ての建築物に対して「24時間換気システム」の設置が義務付けられました。これは、建材や家具から発生するホルムアルデヒドなどの化学物質が室内に滞留し、頭痛やめまいを引き起こすシックハウス症候群を防止するための措置です。

たとえ人がいなくても、室内の空気が毎時0.5回以上(住宅の場合)入れ替わるように、換気扇を常時稼働させる設計が求められています。

業種・施設特性に応じた必要換気量

法律上の最低基準はあくまで「人が排出するCO2」を基準としていますが、実務においてはその場所で発生する「特有の汚染物質」を考慮した設計が必要です。飲食店、医療施設、オフィスなど、業種が変われば換気の主目的も変わります。

現場の状況を無視した画一的な設計は、快適性を損なうだけでなく、空調コストの無駄や営業上のトラブルを招く原因となります。

厨房排気に依存する飲食店特有の給排気バランス

飲食店における換気設計の難所は厨房の強力な排気フードにあります。大量の油煙や熱気を外に出すため、厨房換気扇は客席用とは桁違いの風量を持っています。

もし排気量に見合うだけの「給気(新鮮な空気の取り入れ)」が不足すると、店内が極端な負圧状態になり、重くてドアが開かない、あるいは隙間から不快な風切り音が発生するといった問題が起きます。客席の換気量を確保しつつ、厨房と連動した圧力バランスを保つことが、飲食店実務の肝となります。

参考記事:動圧と静圧とは?全圧や風量と換気システムの関係について解説

不特定多数が密集する大型施設や待合室の負荷計算

劇場、病院の待合室、展示場などは一時的に極めて高い密度で人が集まる特性があります。ここではピーク時の収容人数を想定した最大負荷計算が必要です。

常時最大風量で回すと空調コストが膨大になるため、CO2センサーを設置して人の密度に合わせて風量を自動制御する「VAV(変量風量制御)」の導入などが実務的な解決策となります。施設ごとに異なるピーク時間を把握することが、効率的な設備運用への近道です。

古いビルにおけるダクト配管の物理的制約

居抜き物件や古いビルで新規開業する場合、計算上必要な換気量を確保しようとしてもダクトを通すスペースがない、あるいは建物の梁が邪魔をして太い配管が通せないといった物理的制約に直面します。

この場合、無理に風量を上げるとダクト内での風速が上がりすぎ、騒音トラブルに繋がります。小口径でも効率の良いファンへの更新や分散配置などの工夫が必要となるため、早い段階で専門家に配管ルートの診断を依頼し、現実的な着地点を探るメリットは非常に大きいです。

換気量不足を特定する現場計測

建物が完成した後や運用開始から数年が経過した施設において、実際に「基準通りの換気が行われているか」を検証することは非常に重要です。設計値と実測値はフィルターの目詰まりや建物の気密性劣化によって乖離が生じやすいためです。実務者が自分たちで、あるいは専門業者を通じてチェックすべき代表的な手法を解説します。

CO2濃度センサーを用いた室内の空気淀み箇所の特定

最も手軽で客観的な指標となるのがCO2濃度センサーです。1,000ppmを基準とし、これを超える数値が継続して記録される場所は換気が行き届いていない「空気の淀み(デッドスペース)」であると判断できます。

特に部屋の四隅やパーテーションで区切られたエリアは数値が高くなりやすいため、多点計測を行うことでサーキュレーターの配置変更や吹き出し口の向きを調整する具体的な根拠が得られます。

排気口風速から算出する実質換気能力の逆算実務

直接的な換気量を算出するには、風速計を使用して吸込口や吹出口の風速を計測します。

風量(㎥/h) = 風速(m/s) × 開口面積(㎡) × 3,600

という計算式を用いることで、現在の設備が実際に何立方メートルの空気を運んでいるかを定量化できます。図面上の設計風量と実測値を比較することで、ダクトの詰まりやモーターの劣化など、設備更新が必要な時期を正確に見極めることが可能です。

建築物環境衛生管理基準に基づく定期点検

延床面積が3,000㎡を超える特定建築物(ビル管理法の対象)では、2ヶ月に1回、空気環境測定を行うことが義務付けられています。

測定項目には浮遊粉塵、一酸化炭素、二酸化炭素、温度、湿度などが含まれます。中小規模の店舗や事務所であっても、この基準(ビル管理法)に準じた定期測定を行うことはテナントとしての信頼性向上や、従業員の労働安全衛生を担保する上で非常に有効なリスク管理となります。

参考記事:建築物衛生法(ビル管法)とは?特定建築物の衛生的環境について解説

冷暖房効率と換気量を両立させる高機能設備

換気量を増やすことは外気をそのまま取り込むことを意味します。冬であれば氷点下の空気が入り、夏であれば高温多湿な空気が入るため、業務用エアコンがその空気を冷やし、あるいは温めるために過剰に稼働しなければなりません。

エネルギー価格が高騰する現代において、この熱損失は経営上の大きな負担です。この課題を劇的に解決するのが、高機能な換気設備の導入です。

全熱交換器による熱損失の抑制

全熱交換器(代表的な製品名:ダイキン「ベンティエール」、三菱電機「ロスナイ」など)は、換気を行う際に室内の汚れた空気から「熱(温度)」と「湿度」を回収し、新しく取り入れる外気に移し替える仕組みを持った設備です。

一般的な換気扇では熱が全て逃げてしまいますが全熱交換器を利用すれば、排出される熱の約60%〜80%を再利用できます。これによりエアコンの消費電力を劇的に抑えつつ、窓を開けずに24時間、基準を満たす換気が可能になります。

参考記事:全熱交換器の期待される効果と導入を勧める業種を解説

既存の業務用エアコンへ換気機能を後付けする手段

既にエアコンが設置されている現場でも、外気取り入れダクトをエアコン本体に接続したり、単独設置型の全熱交換器を天井裏に追加したりすることで換気能力を大幅に強化できます。特に、感染症対策で急遽換気量を増やさなければならない場合、窓開けに頼るよりもこのような設備の「後付け」の方が長期的なコストパフォーマンスに優れます。

建物の構造によって可能な接続パターンが変わるため、施工実績の豊富な業者に現地調査を依頼することで、無駄な工事費を抑えた最短ルートの提案を受けられます。

参考記事:風邪などのウイルス対策に高機能換気設備が効果的!窓を開けない換気方法を解説

フィルターメンテナンスによる実効風量の維持とコスト

高機能換気設備ほど、その性能を維持するためのフィルター管理が重要です。

フィルターが目詰まりするとファンの電力消費が増えるだけでなく、肝心の換気風量が設計値の半分以下まで低下することもあります。定期的な清掃やウイルス対策用の高性能フィルター(HEPAフィルター等)への交換周期を適切に管理することで、空調効率の低下を防ぎ、結果として機器全体の寿命を延ばすことにも繋がります。

参考記事:飲食店には高機能換気設備がおすすめ!室温変動を抑えて換気する方法ついて解説

よくある質問

Q. 窓を開けての換気だけで建築基準法をクリアできますか?

理論上は可能ですが、実務上は不十分とみなされるケースが多いです。風速や外気温によって換気量が変動し、定量的な「毎時30㎥/人」を証明し続けることが難しいためです。法的には機械換気設備の設置が原則であり、窓開けはあくまで補完的な手段として位置づけられます。

特に高気密な建物では、空気の流れが一方通行になりやすいため、機械的な給排気が不可欠です。

Q. 従業員の人数が変わった場合、換気扇も買い替える必要がありますか?

必ずしも買い替えは不要ですがインバーター制御や風量調整が可能な設備であれば、設定変更で対応できます。もし固定風量の古い換気扇で明らかに人数が設計想定を超えた場合は、二酸化炭素濃度が上昇し、在室者の生産性低下や法的基準割れを招くため、設備の増設や高機能化を検討すべき時期と言えます。

Q. 厨房の換気扇を回していれば客席の換気も足りていることになりますか?

足りていない可能性が高いです。厨房の排気は調理熱や匂いを取り除くためのものであり、客席側の新鮮な空気を供給する「給気」の仕組みとセットでなければ、建物全体が強力な負圧状態になります。

結果としてドアが非常に重くなったり、排水口から匂いが逆流したり、エアコンの効きが悪化したりするため、客席には独立した給排気設計が必要です。

まとめ

必要換気量の確保は単なる法令遵守に留まらず、来店客や従業員の健康を守り、集中力を維持するための「攻めのインフラ投資」です。

建築基準法が求める一人あたり30㎥基準を軸に自身の業種や現場のレイアウトに合わせた緻密な計算と全熱交換器などの高効率な設備導入を組み合わせることが、ランニングコストを抑えた健全な店舗運営への最短距離となります。

計画の初期段階で専門家を交えて現状を可視化し、無理な強行突破ではなく、法令に基づいた合理的な換気システムを構築することをお勧めします。

参考文献

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