業務用エアコン運用ノウハウ 2025.11.13

24時間換気とは?建築基準法による設置義務や設置工事について解説

24時間換気とは?建築基準法による設置義務や設置工事について解説

ふとした瞬間に、部屋の空気がよどんでいると感じたことはありませんか。特に昨今の建造物は気密性が高いため、意識的に空気を入れ替えなければ、知らず知らずのうちに室内の空気環境が悪化してしまうものです。私たちの健康を守るために、現代の建物に欠かせないのが24時間換気システムです。

これはキッチンなどでよく見る換気扇ではなく法律で定められた設備であり、人の健康や建物の寿命にも影響を及ぼしかねないほど重要な設備です。

この記事では、24時間換気とは何か、なぜ法律で設置が義務付けられているのか、そしてオフィスビルに最適な換気システムを選ぶための種類と省エネ対策まで解説します。

24時間換気とは

24時間換気とは

24時間換気システムは、文字通り24時間体制で建物内の空気を入れ替え続けるための設備です。

これは窓を開けて行う自然換気では不十分な現代の高気密な建物構造に対応するために義務付けられました。室内の空気汚染を防ぎ、居住者の健康を確保する上で、このシステムの役割は非常に重要です。

24時間換気の特徴は室内の汚れた空気や湿気を外部に排出し、代わりに新鮮な外気を取り込む機械換気システムの総称です。一般的な換気扇が料理や入浴時など一時的に使われるのに対し、このシステムは常時稼働し続けます。

これにより建材から放出される有害な化学物質や人の呼吸によって発生する二酸化炭素、さらには結露の原因となる湿気などを室内に滞留させないようにしています。

建築基準法改正の目的

建築基準法が改正された背景には、私たちの暮らしを守るための重要な社会的課題がありました。

それは、2000年代初頭に大きな問題となったシックハウス症候群への対策です。当時の住宅は建材や家具などに含まれる化学物質(主にホルムアルデヒドなど)が室内に放出され、住む人に頭痛や吐き気などの健康被害を引き起こすことが多々あったのです。

その深刻さから、国はこの問題を放置できないと考えました。

シックハウス対策

国がシックハウス症候群に対応するために講じたのが、2003年7月に施行された建築基準法の改正です。

この改正の最大の目的は、建物内の空気汚染の原因となる化学物質を、外部に排出し続ける仕組みを法律で義務付けることにありました。高気密・高断熱化が進んだ現代の住宅では、窓を開ける自然な換気だけでは有害物質が室内に留まってしまうため、機械の力を使って強制的に空気を入れ替える必要が出てきたのです。

そのため、この改正以降に建てられたすべての建物には原則として24時間換気システムの設置が義務付けられています。これは、私たちが安心して暮らせる室内環境を法律の力で担保するための、極めて重要なルールと言えます。

法定換気回数0.5回/hの基準

建築基準法では、ただ換気設備を付ければよいというわけではなく、どれくらいの速さで空気を入れ替えなければならないかという具体的な基準が明確に定められています。それが換気回数0.5回/h以上という基準です。

この0.5回/hという数値は、1時間あたりに室内の空気の半分が入れ替わることを意味します。つまり、2時間あれば部屋全体の空気が完全に新しい空気と入れ替わる計算になるわけです。この基準は有害物質であるホルムアルデヒドの濃度を、人体に影響が出ないとされる基準値以下に抑えるために、科学的な根拠に基づいて設定されました。

この基準を守り続けることが、24時間換気システムの最も重要な役割なのです。

建築基準法による換気回数とホルムアルデヒド指針値

項目 基準値 根拠法
換気回数(最低) 0.5回/h以上 建築基準法 施行令第20条の2
ホルムアルデヒド濃度指針値 100μg/m³(0.08ppm)以下 厚生労働省

24時間換気システムの3つの種類と仕組み

24時間換気システムの3つの種類と仕組み

24時間換気システムと一口に言っても、空気の出し入れの方法によって第一種・第二種・第三種の3種類に分けられます。

それぞれの換気方法は、給気と排気のどちらを機械の力で行うかによって異なり、建物の用途や気密性に合わせて適切に選ぶ必要があります。ご自宅の換気扇がどのタイプかを知ることが、システムの正しい使い方を理解する第一歩です。

第一種換気 給排気とも機械で行う方法

第一種換気は、給気と排気の両方を、換気扇などの機械(ファン)を使って強制的に行う方式です。この方式の最大のメリットは換気量を最も正確にコントロールできる点にあります。機械が常に一定の空気量を出し入れするため、外の風の強さや窓の開閉といった外部環境に左右されにくく、安定した換気性能を発揮できるのが特長です。

そのため、高気密・高断熱の住宅や大規模なオフィスビル、病院など、厳密な温度・湿度管理や空気の清浄度が求められる施設で採用されることが多いシステムです。

導入コストは他の方式に比べて高くなりますが後述する熱交換システムを組み込むことができるため、長期的に見ると省エネ効果が高く、結果的にコストパフォーマンスに優れる場合も少なくありません。

第二種換気 給気のみ機械で行う方法(陽圧)

第二種換気は、給気のみを機械で行い、排気は自然に開口部から外へ出ていく方式です。

この方式の最大の特徴は室内の気圧が外気圧よりも高くなる陽圧状態になることです。室内を陽圧に保つことで、ドアや窓の隙間から汚れた外気が入り込むのを防ぐことができるため、空気清浄度を高く保つことが必須の環境、例えば工場のクリーンルームや手術室などで主に用いられます。

しかし、一般の住宅で採用すると室内の湿気が壁の内部に入り込みやすくなり、結露やカビの原因となるリスクが高まるため通常の住宅用としてはあまり使われません。私たちの生活空間で見る機会は少ないかもしれませんが、非常に専門的な用途で活躍する換気方法です。

第三種換気 排気のみ機械で行う方法(陰圧)

第三種換気は排気のみを機械(換気扇など)で行い、給気は自然給気口を通して外の空気を自然に取り込む方式です。

この方式は、一般の住宅やアパートで最も広く採用されている、比較的シンプルな換気方法です。機械で空気を排出することで、室内が外気圧よりも低くなる陰圧(いんあつ)状態になり、給気口から常に新しい空気が押し込まれる形になります。

キッチンやトイレ、浴室など、臭いや湿気が発生しやすい場所の換気扇がこのタイプです。排気部分に電気代がかかるだけで、気側にはファンがないため、初期費用が最も安く済むというメリットがあります。

ただし、外の空気をそのまま取り込むため、夏は暑い空気、冬は冷たい空気が室内に入り、室温が影響を受けやすいという点は注意が必要です。

参考記事:換気方法に種類がある?換気について徹底解説!

24時間換気の有効活用と省エネ対策

24時間換気の有効活用と省エネ対策

24時間換気は義務化されていますが、電気代がもったいない冬は寒くなるといった理由でその効果を最大限に活かせいないケースが散見されます。

しかし、正しいシステムの選択と適切なメンテナンスを行うことで、健康維持と省エネを両立させることは可能です。特に換気の課題を解決する熱交換型の仕組みを理解することが、快適な室内環境を実現するポイントとなります。

参考記事:高機能換気設備とは?一般的な換気設備との違いや換気方法について解説 

省エネ効果を高める熱交換型換気システム

前述した第三種換気は初期費用が安い一方、冬場はせっかく暖めた室内の空気をそのまま外に捨て、冷たい外気を室内に取り込んでしまうため、エアコンがその分頑張って働き、電気代がかさむという課題がありました。この課題を劇的に解決するのが、熱交換型換気システムです。

これは第一種換気の一種で、排気する空気と給気する空気を、熱交換器という装置の中で交差させます。排気する空気の持つ熱(冬は暖かさ、夏は冷たさ)を、取り込む外気に移し替える仕組みです。この仕組みのおかげで、室温を大きく変えることなく、新鮮な空気を取り込めるようになります。

たとえば外気温が0℃の日でも、熱交換により室内に取り込まれる空気の温度を10℃程度まで高められるためエアコンの負荷が大幅に減り、結果として光熱費の節約につながります。

参考記事:全熱交換器の期待される効果と導入を勧める業種を解説

換気効率を維持するフィルター掃除の頻度

どんなに高性能な24時間換気システムも、メンテナンスを怠るとその能力はすぐに低下してしまいます。

特に重要なのが、給気口に設置されているフィルターの清掃です。給気口から取り込まれる外気には花粉やホコリ、PM2.5などの汚染物質が必ず含まれており、これらはフィルターがキャッチしてくれます。

しかしフィルターが目詰まりを起こすと、空気を取り込む力が弱くなり、最終的には建築基準法で定められた0.5回/hの換気量を満たせなくなってしまうのです。これはシックハウス対策というシステムの根幹を揺るがす事態です。

一般的に給気フィルターは半年に一度程度、掃除機でホコリを吸い取るか、水洗いすることが推奨されています。動いているから大丈夫と過信せず、定期的なお手入れを意識して行いましょう。

換気扇を停止・弱める行為がNGな理由

窓を開けるから大丈夫だろう電気代がもったいないからといって24時間換気のスイッチを切ったり、弱運転に切り替えようと考えている方もいるかもしれませんが、特別な理由がない限りこれは避けましょう。そもそも24時間換気システムは、常時発生している室内の汚染物質を継続的に排出するために義務付けられた設備だからです。

料理や入浴で一時的に汚染物質の濃度が上がる際は窓開けを併用しても構いませんが、それ以外の時間は動かし続けるのが基本です。もしシステムを停止すると室内の二酸化炭素濃度が上昇し、眠気や倦怠感を引き起こす可能性があります。

また、特に湿気の多い季節では、換気不足による結露が壁の内部で発生し、建物の構造材を腐食させたり、カビを発生させたりする原因にもなりかねません。電気代はそれほどかからないものなので(Q&A参照)、健康と建物を守るためにも、つけっぱなしが正しい使い方だと肝に銘じましょう。

参考記事:空気清浄は本当に効果がある?室内を清潔にする空気清浄の効果と重要性を解説 

24時間換気の設置・交換工事

24時間換気の設置・交換工事

24時間換気システムを新たに設置したり、古いものを交換したりする際には専門業者の工事が必要になります。特に既存のシステムから高性能な熱交換型へ切り替える場合は、建物の構造に合わせた複雑なダクト配管工事が伴うことが多いため、専門知識を持った業者選びが成功のポイントとなります。

熱交換型へ変更する際の工事課題

既存の建物で、従来の第三種換気(排気のみ機械)から、省エネ効果の高い第一種熱交換型換気システムへ変更しようとする場合、工事にはいくつかの大きな課題が伴います。第三種は排気ダクトさえあれば機能しますが、熱交換型の場合は給気ダクトと排気ダクトの2系統の配管が必要になるためです。多くの場合、壁や天井裏に新たな給気用ダクトを通すスペースを確保しなければならず、大掛かりな内装工事や天井の開口工事が必要になります。特にマンションなどの集合住宅では、構造上、新たな配管ルートの確保が非常に難しいケースもあります。そのため、工事に着手する前に、必ず専門業者による綿密な現場調査と、建物の構造を熟知した建築士や設備士による設計が不可欠になるでしょう。

設置・交換に必要な資格と業者選び

換気設備の設置や交換工事には、コンセントの新設や電源配線の接続が必ず伴います。このような電気工事は、法令により第二種電気工事士以上の国家資格を持つ者でなければ行うことができません。したがって、DIYで換気システムを設置することは基本的に不可能であり、必ず有資格者が在籍する専門業者に依頼する必要があります。業者を選ぶ際は、単に費用の安さだけでなく、換気設備の施工実績が豊富であるか、熱交換システムなど専門的な知識を持っているか、そして工事後のアフターフォロー体制が整っているかを重視すべきです。複数の業者から見積もり(相見積もり)を取り、価格だけでなく提案内容や保証期間を比較検討することが、失敗しないための最も確実な一手となります。

よくある質問

Q1. 24時間換気を停止しても問題ないですか

原則、停止してはいけません。 24時間換気システムは、シックハウス対策として建築基準法で設置が義務付けられており、常時稼働させることで室内の有害物質濃度や二酸化炭素濃度を安全な基準値以下に保つ役割を担っています。停止することで、体調不良の原因となる可能性があるため、特別な理由がない限りは運転を継続しましょう。

Q2. 24時間換気の電気代はいくらですか

非常に安価です。 一般的な24時間換気システムは、消費電力が非常に小さく抑えられています。機種や地域、契約プランによって変動しますが、一ヶ月あたりの電気代の目安は数百円から1,000円程度と、非常に低コストです。健康や建物の寿命を守る役割を考えれば、この電気代は必要経費として考えるべきでしょう。

Q3. 24時間換気があれば窓開けは不要ですか

基本的には不要ですが、状況によっては併用が推奨されます。 24時間換気システムは、法定の最低換気量を満たすために設計されています。しかし、料理で煙や臭いが大量に出たときや、大人数で集まって二酸化炭素濃度が急激に高まったときなど、一時的に換気量を増やしたい場合は、窓を大きく開けて自然換気を併用するとより効果的です。

まとめ

24時間換気は、単なる便利な設備ではなく、私たちの健康を守るために法律で義務付けられた、現代の建物にとっての必須インフラです。シックハウス対策を背景に導入され、1時間あたり0.5回以上の換気を確実に実行し続けることがその役割でした。

システムの性能を最大限に活かし、かつ省エネを図るには、熱交換型換気システム(第一種)の導入を検討し、日々のフィルター清掃を欠かさないことが重要です。システムを停止したり、運転を弱めたりする行為は、健康リスクを高め、建物の結露や劣化にも繋がるため、絶対に避けるべき行動です。

もしご自宅の換気扇から異音がする、換気効率が悪いと感じる場合は、システムの耐用年数(一般的に10年程度と言われています)を過ぎている可能性があります。設置や交換には電気工事士などの資格が必要ですので、信頼できる専門業者に相談し、まずは現場調査と正確な見積もりを取ることが、快適な空気環境を取り戻すための具体的な次の一手となるでしょう。

参考文献

related ブログ

index