業務用エアコン運用ノウハウ 2025.04.25

空調負荷とは?計算方法や影響する要素と低減方法を解説

空調負荷とは?計算方法や影響する要素と低減方法を解説
この記事の主な内容
  • ・空調負荷の定義と必要性を解説
  • ・空調負荷の計算方法とポイントを紹介
  • ・計算に影響する要素を解説
  • ・各施設における空調負荷の考え方を事例で説明
  • ・空調負荷の削減方法とその効果を提示

 

空調機器の設計や運用を行う上で、空調負荷の知識は欠かせません。

快適な室内環境の維持、省エネ、コスト管理といった課題について解説していきます。

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空調負荷とは

空調負荷とは

空調負荷とは、冷房や暖房によって取り除く、あるいは加える必要がある熱量のことを指します。

この熱量が多いほど、大きなエネルギーが必要になり空調機器の選定や運転にも影響します。

たとえば、夏場のビルでは外気の熱や人の体温、照明機器の熱が集まって負荷が大きくなります。

逆に、冬場は屋外との温度差が大きくなることで暖房負荷が高くなるのが一般的です。

正しく把握することで、空調機器の選定やエネルギー管理に役立ちます。

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空調負荷がなぜ重要なのか

空調負荷がなぜ重要なのか

空調負荷の理解は省エネルギー化や設備コストの適正化に直結します。

たとえば、過大な機器を導入すればイニシャルコストと運用コストが無駄になりますし、逆に小さすぎると室温の維持ができず快適性が損なわれます。

またビル管理者や工場経営者にとっては、空調負荷を適切に管理することが電力ピークの抑制や脱炭素経営にも貢献する重要な施策となります。

空調負荷が大きいとどうなる?

空調負荷が大きいと空調機器にかかる負担も大きくなり、以下のような問題が発生する可能性があります。

空調負荷が大きい発生する問題
  • ・電力消費の増加:空調設備がフル稼働するため、消費電力が増え、より電気代がかかる場合があります。
  • ・機器の寿命が短縮:長時間・高負荷での運転が続くと、空調機器の劣化が早まり、交換や修理の頻度が上がる恐れがあります。
  • ・快適性の低下:負荷に機器の性能が追いつかない場合、室温の変動が激しくなり、快適な空間が保ちにくくなります。

これらのリスクを避けるためにも、空調負荷を適切に管理・軽減することが重要です。

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空調負荷の分類

空調負荷は、その発生要因や影響の仕方によって複数に分類されます。

顕熱負荷と潜熱負荷の違い

顕熱負荷とは、室温を上下させる熱のことです。

一方、潜熱負荷は空気中の水分、つまり湿度を変化させる熱に関連します。

たとえば夏場のジムでは汗による湿気が多く、潜熱負荷が大きくなり除湿機能が重要になります。

これらは同時に発生するため、どちらも考慮して空調機器を設計・運用する必要があります。

冷房負荷と暖房負荷の違い

冷房負荷は、外気温が高いときに熱を除去するために必要な負荷です。

主に夏季に問題となり、日射や人体からの発熱が影響します。

一方、暖房負荷は冬季に外気との温度差を補うために加える熱の量を指します。

どちらも建物の用途や立地により大きく異なります。

空調負荷計算と算出が必要な理由

正確な空調負荷の算出は、過不足のない空調機器選定に不可欠です。

計算せずに見積もると、後から設備の能力不足や過剰投資が明らかになるケースも少なくありません。

また、エネルギー効率の高い運用を目指すうえでも定量的な根拠は欠かせません。

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空調負荷計算の手順

空調負荷計算の手順

空調負荷を計算するにはまず対象空間の条件を整理し、そこにどのような熱源があるかを分析し最後に機器の能力との整合性を確認する必要があります。

建物や部屋の条件整理

建物の広さ、高さ、窓の数や方位、断熱性能といった基本的な物理的条件を把握することが出発点です。

これらの情報は熱の出入りに大きく影響するため、計算の精度に直結します。

熱源(外気、日射、人、機器など)の把握

熱源とは、空間内に熱を発生させる要因です。

日射や外気温、人の活動、照明や機器などが該当します。

これらを数値化することで、空調が担うべき熱量が明確になります。

空調機器の性能との整合性

最後に重要なのが、計算した空調負荷と実際に設置する空調機器の能力が合っているかを確認することです。

たとえば計算上では冷房負荷が15kWと算出されていても、設置予定の空調機器が10kWまでしか対応できなければ、冷房能力が不足し室温を下げきれなくなります。

逆に20kWの機器を入れてしまうと初期費用とランニングコストがかさむうえ、設定温度に達するまでが早くなりすぎて頻繁なオン・オフで機器の寿命を縮めてしまうこともあります。

計算結果をベースに必要十分な性能の機器を選定することが、快適性と省エネの両立につながります。

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簡易的に空調負荷を見積もる方法

簡易的に空調負荷を見積もる方法

厳密な計算が必要ない場面や初期検討段階では簡易的な見積もり方法が便利です。

ここでは、計算式とツール、そして参考にできる目安値をご紹介します。

計算式と簡易ツール

簡単な目安として使える計算式の一例は以下の通りです。

空調負荷(kW)=延床面積(㎡) × 0.15〜0.25

この係数は建物の用途や断熱性能によって変動します。

たとえば、断熱性が高いオフィスビルなら0.15、熱がこもりやすい工場なら0.25程度が基準です。

また、国土交通省や空調設備メーカーが提供している無料の「簡易負荷計算ツール」も多く存在します。

Web上で条件を入力するだけで、おおよその負荷を出してくれるので大変便利です。

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目安として使える基準値

空調負荷の見積もりには、業界で広く用いられている目安値も活用できます。

以下は用途別の空調負荷目安(冷房時)です。

用途 空調負荷目安(W/㎡) 備考
一般オフィス 150〜200 窓の方角や人数により上下
小売店 200〜250 熱源(照明、冷蔵庫等)が多い
体育館 300〜400 多人数で活動量が高い
工場 250〜400 熱を発する設備が多い

このような基準をもとに概算を立てたうえで、必要に応じて詳細な負荷計算に進むと効率的です。

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空調負荷に影響を与える要素

空調負荷は建物の構造や使用状況によって大きく変動します。

どのような要因が負荷に影響を与えるのかを具体的に解説します。

外気温・日射量の影響

外気温が高いほど、室内との温度差が大きくなり冷房負荷が増加します。

特に夏季には、直射日光による日射熱が壁面や窓から侵入し、室内の温度を急激に上昇させます。

これを防ぐには、遮熱フィルムの導入や庇(ひさし)の設置が有効です。

一例として、南向きの大きな窓があるオフィスでは、日射遮蔽の工夫がないと冷房負荷が約30%増加するというデータもあります。

日射量の少ない冬季でも、放射冷却による窓の熱損失が暖房負荷に影響を与えます。

人体からの発熱・発湿

人間の体からも、無視できない量の熱と湿気が発生します。

一般的に成人1人あたり約120Wの顕熱と50Wの潜熱を発しており、活動量が上がるとこの数値も大きくなります。

たとえば、会議室に10人が1時間滞在すると約1.2kWの顕熱負荷が発生します。

密閉された空間ではこの熱が蓄積しやすく、温度上昇の原因となるため換気や空調制御の工夫が求められます。

照明や機器の熱負荷

照明器具やOA機器、製造装置なども熱源として作用します。

LED照明は発熱が少ないですが、蛍光灯や白熱灯は発熱量が大きく特に多灯使用する店舗や工場ではその影響が顕著です。

また、コピー機、パソコン、プリンターなどの事務機器も稼働時には意外に多くの熱を発生します。

機器ごとの発熱量を見積もることで、より正確な空調設計が可能になります。

建物の断熱・気密性能

断熱性が低いと、外気温の影響を強く受けてしまい、空調負荷が大幅に増加します。

逆に、気密性や断熱性を高めることで、外部の温度変化を遮断し必要な空調エネルギーを抑えることができます。

たとえば、断熱材を屋根・壁・床に適切に配置するだけで、空調負荷を10〜20%削減できる事例も多く報告されています。

築年数の古い建物や仮設構造物では、断熱改修が特に効果的です。

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人体による空調負荷

人間の存在は、空調負荷の中でも見落とされがちですが、実は非常に重要な要素です。

人の発熱量や活動内容によって、室内の温度や湿度に大きな影響を与えます。

以下からは、人体による空調負荷の具体的な影響と対策について解説します。

人体からの発熱量・発湿量

人間は静止している状態でも常に熱と湿気を放出しています。

一般的に成人1人あたりの顕熱(温度上昇を引き起こす熱)は約100〜130W潜熱(湿度上昇を引き起こす熱)は約50〜60Wとされています。

たとえば、10人の会議室ではそれだけで合計約1.0〜1.3kWの顕熱が生じることになります。

さらに、湿度の管理が難しい日本の夏では、発汗による潜熱が空調機器にかかる負荷を一層高めるため除湿機能が非常に重要になります。

活動レベル別の負荷の違い

人間の活動量によって発熱・発湿量は大きく変化します。

以下は、活動レベルごとの目安です。

活動内容 顕熱(W) 潜熱(W) 合計負荷(W)
睡眠・休息 85 40 125
座位(軽作業) 100 50 150
歩行(中程度) 130 80 210
運動(激しい) 180〜250 100〜150 280〜400

このようにスポーツジムや体育館のように運動量が多い空間では人体からの熱負荷が極めて高くなり、それに見合った冷房・除湿能力が必要です。

快適性と省エネの両立

人体負荷を軽減するには単に冷房能力を上げるだけではなく、快適性と省エネのバランスをとる工夫が欠かせません。

たとえば個別空調やゾーン管理により、人が集まる場所にだけ効率的に冷房をかけることができます。

さらに、CO₂センサーや人感センサーを活用すれば、在室人数に応じた負荷制御も可能です。

これは省エネルギーに貢献するだけでなく、利用者の快適性向上にもつながります。

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工場における空調負荷計算のポイント

工場はオフィスや商業施設と比べて特殊な熱源が多く、空調負荷の計算もより複雑になります。

工場に特有の要素を踏まえた空調負荷の考え方と実務での対処法について紹介します。

設備発熱・作業環境の考慮

工場内では、生産設備や加工機械から継続的に熱が発生します。

たとえば、成形機、溶接機、乾燥炉といった装置は1台あたり数kWの熱を放出することもあり、その影響は無視できません。

また、作業員が多数常駐する場合は前述したように人体からの熱も加わります。

さらに、安全の観点から換気量が多く設定されていることも多く、外気導入による熱負荷が増す点にも注意が必要です。

実際の計算では、機器の稼働時間や使用頻度も加味する必要があります。

たとえば、24時間稼働する工場と昼間のみ操業する工場とでは空調設計の前提が大きく異なります。

計算の難しさと対処法

工場の空調負荷は設備・人数・換気・日射など多くの変数が絡むため単純な計算式では対応できません。

そのため、シミュレーションソフト(例:HeatLoad、EnergyPlus)や設備会社の負荷計算支援サービスを活用することが有効です。

また、既存工場のリニューアルでは、過去の電力使用実績や温湿度データを元に実測評価を行う方法もあります。

これにより、理論上の負荷計算と実際の使用状況とのギャップを埋めることができます。

工場空調は省エネ化が難しい分野の一つですが、ゾーン分けによる制御や熱源設備の高効率化により十分な削減余地があります。

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体育館・スポーツジムでの空調負荷評価

体育館やスポーツジムでは、他の施設とは異なる特有の空調課題があります。

高天井構造、多人数の高活動、使用時間の変動性といった要素が空調負荷に大きな影響を与えるため適切な評価と管理が求められます。

多人数・高活動時の負荷特性

体育館やジムは、利用者の身体活動量が高く、その分だけ人体からの発熱・発湿が大きくなります。

前述の通り運動時の1人あたりの発熱量は最大400Wに達することがあり、たとえばフル稼働中のジムで20人がトレーニングしていればそれだけで最大8kWの熱負荷が生じる可能性があります。

さらに運動によって湿度も急激に上昇するため、除湿能力の高い空調機器や空気の流れを最適化するファンの併用が重要になります。

また、高天井であるために冷気が床面まで届きにくいという問題もあります。

これを補うには天井扇やサーキュレーターの併用、気流制御ダクトの設置などが有効です。

施設運用スケジュールとの関係

これらの施設では日によって利用人数や活動レベルが大きく異なります。

平日昼間は利用者が少ない一方、夕方や休日は混雑するというパターンが典型的です。

そのため、空調の「全館一括制御」ではなく、「エリアごとの制御」や「時間帯に応じた運転モード設定」が推奨されます。

たとえば、スタジオ、トレーニングエリア、休憩スペースなどにゾーンを分け、それぞれに適切な設定温度・風量・除湿運転を組み合わせることで快適性を保ちつつ無駄なエネルギーを抑えることが可能です。

また、施設運用に合わせて空調スケジュールを自動制御することで、無人時間帯の過冷却・過暖房を防ぎ、年間の空調コストを大きく削減できます。

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空調負荷を減らす方法

空調負荷を適切にコントロールすることは、設備費やエネルギーコストの削減だけでなく快適性の向上や環境負荷の低減にも直結します。

この章では、具体的にどのような対策を講じることで空調負荷を減らせるのかを紹介します。

断熱強化と気密性の向上

建物の断熱性能が高ければ、高温・低温の外気からの影響を抑え、空調負荷を大幅に削減できます。

たとえば、外壁や屋根に高性能の断熱材を施工することで冬場の暖房負荷は最大30%、夏場の冷房負荷は20%程度軽減されるケースもあります。

加えて、気密性が不十分な建物では、隙間風や漏気により空調された空気が逃げてしまい、常に機器がフル稼働となります。

サッシの隙間のシーリング強化やドアの気密パッキンの設置といった対策が見過ごされがちですが非常に効果的です。

換気・遮熱の工夫

外気を取り入れる換気は必要不可欠ですが夏場の高温空気や冬場の冷たい空気がそのまま室内に入ると空調負荷を押し上げてしまいます。

そのため、熱交換型換気システムの導入が有効です。

これにより外気を取り入れつつも室温に近い温度に調整でき、負荷を最小限に抑えることが可能になります。

また、ガラス窓からの直射日光を遮るために、遮熱フィルムやブラインド、庇を設置するのも非常に効果があります。

とくに南向き・西向きの窓に対しては、遮熱対策の有無で冷房負荷に明確な差が出ます。

機器選定と運用の最適化

空調機器自体の効率を上げることも、負荷削減には欠かせません。

最新のインバーター式空調機は、部分負荷運転でも高効率を維持できるため運転状況に合わせて最適な能力で稼働します。

また、設備を選ぶだけでなく「どう運用するか」も重要です。

たとえば、空調の設定温度を夏は1℃高く、冬は1℃低くするだけで電力消費は約10%削減できると言われています。

加えて、人感センサーやCO₂濃度による自動制御を組み合わせれば空調負荷を無駄なく抑えられます。

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空調負荷低減のメリット

空調負荷を下げる取り組みは単にエネルギー消費を抑えるだけでなく設備の寿命や快適性、さらには企業の環境貢献にも波及します。

以下からは具体的にどのようなメリットが得られるのかを3つの視点から紹介します。

エネルギーコストの削減

空調設備は建物のエネルギー使用の中でも最も大きな比率を占める場合が多く、全体の40〜60%を占めることもあります。

そのため、空調負荷を減らすことで直接的に電気代の削減が可能です。

たとえば、断熱改修や高効率機器への更新を行った中小規模オフィスビルでは、年間で30万円以上の空調コスト削減を実現したケースもあります。

こうした削減は、長期的に見て大きな経済的メリットにつながります。

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設備寿命の延長

空調機器は、過剰な負荷がかかると稼働時間が長くなり摩耗や劣化が早まります。

負荷を抑えることで、1日の運転時間や起動回数が減少し機器にかかるストレスも小さくなります。

結果として、故障率が下がり、定期的な修理や交換といった突発的なコストも抑えられます。

これにより、イニシャルコストだけでなくランニングコスト全体の最適化が可能となります。

快適性の向上と環境貢献

空調負荷が適正に管理されている環境では、温度・湿度の変動が少なく居住者や利用者が快適に過ごすことができます。

これは従業員の作業効率や顧客満足度にもつながり、間接的に経営効果を生む要素です。

さらに、空調負荷の低減はエネルギー使用量の削減、すなわちCO₂排出の抑制にも貢献します。

企業や施設の環境配慮姿勢が問われる現在、脱炭素化の一環としても高く評価される取り組みです。

まとめ

空調負荷とは建物の快適な環境を維持するために必要な冷暖房のエネルギー量を意味します。

この記事では、空調負荷の基本的な定義から分類、計算方法、人体や設備からの影響、さらには施設ごとの具体的な評価ポイントや負荷を減らすための対策まで幅広く解説してきました。

重要なのは、単に空調機器を選ぶだけでなく、「なぜその能力が必要なのか」「どこに熱源があるのか」「どのように負荷を抑えられるのか」といった視点を持つことです。

これらを理解して適切に運用することで、エネルギーコストの削減、設備寿命の延長、快適性の向上といった多くのメリットを享受できます。

とくに工場や体育館、スポーツジムなど、特殊な条件を持つ施設では、個別の熱源や利用状況に応じた柔軟な対応が欠かせません。

ReAirでは、オフィスや店舗、ビル・商業施設などを対象に、空調・換気設備の設計から施工まで一貫して対応しております。

既存の空間の見直しはもちろん、これから新しく施設を計画されている方も、ぜひお気軽にご相談ください。

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参考文献

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