店舗設計とは？設計工程やコンセプト設計などの基礎を解説

 

 

店舗を新しくつくるとき、多くの人が最初に悩むのが「何から始めればいいのか」ということです。

店舗設計には、レイアウトやインテリアの工夫だけでなく、構造・動線・法律への対応といった幅広い視点が求められます。

この記事では店舗設計の基礎から応用までを体系的に解説し、実際の設計事例や注意点、専門家の選び方までわかりやすく紹介します。

これから出店を考えている方、設計に関心のある方はぜひ参考にしてください。

店舗設計の基本

店舗設計では全体の流れと必要な工程を理解することが重要です。

以下から設計の全体像と、それを構成する「計画」「設計」「施工」という3つの段階について整理して解説します。

店舗設計の全体工程

店舗設計の工程は、大まかに次の5つに分かれます。

たとえば、カフェを開業する場合ターゲットとなる客層や提供するメニューを踏まえて、空間全体の雰囲気を決めることから始まります。

その後レイアウト設計、設備設計を行い図面に落とし込んだうえで工事へと進みます。

これらの工程はそれぞれが密接に関係しており、前の段階での判断が次の作業に大きく影響します。

そのため、初期段階でコンセプトや店舗の目的を明確にしておくことが極めて重要です。

計画・設計・施工の3ステップ

店舗設計は、実務上は「計画」「設計」「施工」の3つのフェーズに分かれて進行します。

計画フェーズ

開業する場所や立地条件、ターゲット客層、予算感、スケジュールなど、基本的なビジネス戦略をまとめる段階です。

ここでは、開業の目的と理想の店舗像を明確にし、どんな設計が必要かを洗い出します。

設計フェーズ

計画をもとに、具体的な空間レイアウトや設備の配置、素材選定などを行います。

この段階では図面の作成や法令の確認も含まれ、プロの設計者の関与が必要不可欠です。

施工フェーズ

設計図に基づいて工事を進める段階です。

工期や現場の管理、予算の調整などが求められ、設計者と施工業者が連携して進めていく必要があります。

これらのステップをしっかりと把握しておくことで、想定外のトラブルや費用の増大を未然に防ぐことができます。

コンセプト設計の重要性

コンセプト設計は、店舗の魅力を最大限に引き出すための土台です。

ここでは、店舗をブランディングの観点からデザインする意義と、そのアイデアを具体的に形にしていく流れについて解説します。

ブランド戦略としての店舗設計

店舗の内装やレイアウトは、単なる「見た目」だけでなく、企業やブランドの価値を伝える重要な役割を担っています。

訪れたお客様に「このお店、なんだか印象に残る」と感じてもらえるかどうかは、空間全体に統一された世界観があるかにかかっているといっても過言ではありません。

たとえば、地元野菜を使ったナチュラル志向のレストランであれば、無垢材や自然光を活かしたインテリアがよく合います。

反対に、スタイリッシュなバーなら、無機質な素材や間接照明でクールな雰囲気を演出する方が効果的です。

このように、「誰に、どんな印象を与えたいのか」を設計の初期段階から明確にすることでブランドイメージと空間体験が一致し、店舗全体の魅力が高まります。

コンセプトを形にするプロセス

明確にしたブランドコンセプトを実際の設計に反映させるには、いくつかの具体的なステップを踏むことが大切です。

まずは「ターゲット」を定めます。若年層を狙うのか、ファミリー層か高齢者かで、必要な設備や空間の雰囲気は大きく変わります。

次に「提供する商品・サービス」を再確認しましょう。例えば立ち食いスタイルのラーメン店なら、回転率を重視したレイアウトが求められます。

そして最後に「空間演出」を考えます。色彩、素材、照明、香りなど、五感に訴える要素を統一することで顧客に強い印象を残す店舗が実現します。

一例として、若い女性向けのスイーツカフェを開く場合、店内にはくすみカラーを中心としたインテリアを採用し、写真映えする照明設計やディスプレイを意識します。

こうした工夫が「SNSでシェアしたくなる店舗」に直結します。

このようにコンセプトを視覚的・機能的に形にしていくプロセスこそが設計の要とも言えるのです。

店舗レイアウトと動線設計

来店者が快適に過ごせるかどうかはレイアウトと動線の設計に大きく左右されます。

以下では、集客効率や滞在時間、回転率に影響を与える「動線」と「ゾーニング」の設計ポイントについて解説します。

動線設計で集客効率が変わる理由

動線とは、お客様やスタッフが店舗内を移動する際の流れを指します。

たとえば入口から商品棚、レジ、出口までの経路がスムーズであれば、お客様のストレスは軽減され購買行動も自然と促進されます。

動線には大きく分けて3種類あります。

たとえば飲食店の場合、顧客動線とスタッフ動線が交差しすぎると接触や混雑が起きやすくなり、サービスの質が下がるリスクもあります。

逆に動線を整理し、ゾーンごとに明確な分離を行うことで、来店者とスタッフ双方にとって居心地のよい空間が生まれます。

効果的なゾーニングと配置方法

ゾーニングとは、店内のスペースを目的ごとにエリア分けすることです。

エリアの割り振りを誤ると、空間が無駄になったり、商品やサービスが活かされなかったりする可能性があります。

以下は、小規模アパレルショップの一例です。

ゾーニングは、店舗全体のストーリーを作るような感覚で考えると効果的です。

来店から退店までの流れが自然で、かつ商品やサービスの魅力が段階的に伝わる配置にすると、お客様の満足度や購買率も向上します。

また、レジの位置や什器の高さ、通路幅など、細部の寸法も忘れてはいけません。

特にバリアフリー対応やベビーカー利用者など、多様な来店者を想定する場合は、基準寸法の確保が必要です。

図面と設計図の読み方

図面は、設計の意図を正確に伝えるための設計者と依頼主との共通言語です。

主に使われる図面の種類やその違い、図面から読み取るべき情報について、初めての方にもわかりやすく解説します。

平面図・立面図・断面図の違い

店舗設計で最もよく使用される図面には平面図・立面図・断面図があります。

それぞれ異なる視点から空間を表現しており、互いを補い合うことで設計内容を立体的に理解することができます。

たとえば、小さなカフェを設計する場合、平面図で席数やテーブルの位置を決め立面図で壁面装飾や照明の位置を確認、断面図で厨房設備の高さや配管の位置を検討するといった使い分けがされます。

図面から設計意図を読み解くポイント

図面を見る際には、単に形を確認するだけでなく、「なぜこの配置なのか」「どう使われるのか」を読み取る視点が重要です。

以下のポイントを意識することで、設計者の意図をより深く理解できるようになります。

たとえば、入口を入ってすぐ正面に目立つ商品棚がある場合、立面図と平面図をあわせて確認することで、「初回来店時の印象をどうつくるか」が具体化できます。

店舗の建築構造と設備設計

店舗の快適性や安全性は、建築構造や設備の選定によって大きく左右されます。

ここからは、構造形式の選び方と給排水・空調・電気などの基本的な設備設計の考え方について解説します。

構造形式の選択と注意点

建物の構造形式とは、建物を支える骨組みの種類を指します。

主に使われる構造形式には、「木造」「鉄骨造（S造）」「鉄筋コンクリート造（RC造）」があります。

それぞれに特徴があり、店舗の用途や規模、予算に応じて適切なものを選ぶ必要があります。

たとえば家賃の安い古い木造建物を活用して店舗にしたい場合、消防法や耐震補強など追加工事が必要になるケースもあるため設計前に建物の検査と行政への確認が必須です。

また、リフォームや用途変更を行う際は建築基準法や用途地域の制限を確認しておくことも大切です。

違反があると営業許可が下りないことがあります。

給排水・空調・電気の基本設計

店舗運営に欠かせないインフラ設備も、設計段階でしっかりと計画する必要があります。

以下のような設備は業種によって必要性や容量が大きく異なります。

たとえば小規模カフェであっても、冷蔵庫・製氷機・エスプレッソマシンなどを使うと通常の家庭用100Vでは容量不足になる可能性があります。

そのため、単相200Vや三相電源の導入も検討対象となることがあります。

このように、設備設計は見えにくい部分ではありますが、営業後の運用トラブルや経費の増加に直結するため、設計段階で慎重に検討しておくことが重要です。

店舗設計に関わる資格

店舗の設計や施工には、法的な制限や専門知識が求められる場面が多くあります。

以下では代表的な建築関連資格とその役割を解説し、誰にどの業務を任せるべきか判断するための知識を提供します。

1級建築士、2級建築士、木造建築士の建築士

建築士は、建物の設計・監理を行う国家資格です。

業務範囲は資格の種類によって異なり、設計できる建物の規模や用途に制限があります。

店舗設計においても、適切な建築士を選ぶことが安全性と合法性の確保につながります。

たとえば2階建ての鉄骨構造で100坪規模のアパレルショップを設計したい場合、2級建築士では対応できないため、1級建築士に依頼する必要があります。

また、建築士には「設計」だけでなく「工事監理（設計通りに施工されているかのチェック）」という重要な役割もあるため、計画段階から関与してもらうことが望ましいです。

インテリアコーディネーター

インテリアコーディネーターは、家具・照明・カーテンなど、内装の意匠面に関する提案を得意とする民間資格です。

店舗の世界観を具体化し、顧客にとって心地よい空間を演出するうえで欠かせない存在です。

たとえば、美容室やカフェなど、雰囲気づくりが集客に直結する業種では、建築士と連携してインテリア全体を構成するケースが多く見られます。

資格自体に法的効力はありませんが、センスと経験の豊富なコーディネーターは設計チームの中核として活躍します。

インテリアプランナー

インテリアプランナーは、建築知識をベースに空間構成や設計図面の作成も含めて対応できる専門家です。

公益社団法人日本建築士会連合会が実施している認定資格であり、商業空間や公共施設の内装計画に携わるプロフェッショナルです。

建築士と業務内容が一部重なる部分もありますが、空間デザインに重点を置いた実務経験者が多く、設計の実務図面とデザイン性の両立を求める店舗に適しています。

たとえば、狭小スペースを有効活用したアパレル店などではインテリアプランナーの知見が店舗機能とデザイン性のバランス調整に役立ちます。

店舗設計事務所に依頼する場合

店舗設計を成功させるうえで、信頼できる設計事務所の存在は非常に大きな意味を持ちます。

設計事務所の選び方や比較ポイント、依頼から契約までの流れを丁寧に解説します。

設計事務所の選び方と比較ポイント

設計事務所を選ぶ際にまず注目すべきなのは、「その事務所が得意とするジャンルや業種」です。

たとえば飲食店の設計に強い事務所、物販・サービス業に特化した事務所、インバウンド対応の店舗設計を数多く手がけているところなどそれぞれに実績の傾向があります。

以下の比較軸を使うと、依頼先の選定がスムーズになります。

たとえば、開業資金に余裕がない場合は、「限られた予算でも機能性とデザインを両立できる提案」をしてくれる事務所が適しているでしょう。

一方で高級路線やブランディング強化を狙う場合はデザインコンセプトに強い事務所を選ぶ方が効果的です。

可能であれば、事前に設計事務所が手がけた実店舗を訪問し、実際の空間や仕上がりを体験することをおすすめします。

写真だけではわからない「動線の良さ」「居心地」「素材感」などが把握できます。

見積もりから契約までの流れ

設計事務所に依頼する際の一般的な流れは、以下の通りです。

この一連のプロセスにおいて、「設計料と工事費は別である」ことに注意が必要です。

また設計と施工を一括で依頼できる「設計施工一括方式」の業者も存在しますが、費用の透明性や第三者的な監理の有無に差が出るため信頼できる相手かを慎重に見極めることが重要です。

ReAirの店舗設計 事例紹介

ここではReAirが手がけた実際の店舗設計事例を紹介します。

業種ごとの設計ポイントや工夫を知ることで、自身の店舗づくりに活かせるヒントが見つかるはずです。

カフェスタイル旗艦店：& OIMO TOKYO CAFE

短期間での設計・施工にも対応しつつ、ブランド世界観と営業動線を両立した設計が評価されています。

コワーキングスペース：いいオフィス沖縄

多様な働き方を支える設計により、ユーザーの定着率と満足度の向上に貢献しています。

アパレルショップ：CPG GOLF Tokyo store

目的とコンセプト	ゴルフウェアブランドの世界観を空間に投影するため、「都会的で洗練されたスポーツ×モード」な雰囲気を実現。 ブランドイメージの浸透と購買意欲の喚起が設計の目的です。
カラー設計	黒・グレーを基調とした統一感ある内装
照明計画	商品ごとのハイライト照明で視認性と高級感を演出
回遊性	入店後すぐにフルアイテムを視認できる導線設計

パーソナルジム：PLUS ME

目的とコンセプト	個室型トレーニング空間として、「プライベート感と機能性の融合」を重視。女性ユーザーを想定し、安心感と洗練されたデザインを両立させる設計が求められました。
遮音構造	隣室からの音漏れを防ぐ壁構造・素材を選定
清潔感	白と木目を基調とした内装で、清潔感とリラックス効果を演出
動線配慮	受付から更衣室、トレーニングルームへの移動がスムーズ

安心して通えるパーソナル空間づくりにより、継続利用や紹介率の向上につながっています。

これらの事例からも分かるように、店舗設計は業種やターゲット層によって最適な空間づくりのアプローチが大きく異なります。

自店の目的に合った設計戦略を立てることが、成功の鍵となります。

店舗設計を進める上での注意点

設計の美しさや機能性に注力するあまり、見落とされがちなのが法規制や安全性、施工中・営業後のトラブルリスクです。

設計段階で必ず確認しておきたい法的要件と、設計・施工の失敗を防ぐための実践的チェックポイントを解説します。

法規制・消防法などの確認事項

店舗を設計・営業するには、建築基準法や消防法、用途地域など多くの法令に適合している必要があります。

これらを無視して計画を進めると、開業できなかったり営業停止のリスクが生じたりします。

代表的な確認項目

たとえば、飲食店では「厨房にグリーストラップ設置が必要」「排気が住宅地に向かないよう配慮が必要」といった細かい要件もあります。

設計段階から専門家（建築士や行政書士）と連携し、法的チェックを行うことが不可欠です。

失敗しないためのチェックリスト

以下は、設計・施工段階でよくある失敗を未然に防ぐためのチェックリストです。

開業後に「もっとこうしておけばよかった」と後悔しないよう、計画段階でしっかり確認しておきましょう。

店舗設計チェックリスト（抜粋）

□ 店舗の業種・業態に適した動線設計になっているか
□ 法令（建築基準法・消防法など）を満たす図面になっているか
□ 設備容量（電気・排水・換気）が不足していないか
□ スタッフ動線と顧客動線が交差していないか
□ 来店者の視線誘導・回遊性が設計されているか
□ 近隣に迷惑となる騒音・臭気対策が講じられているか
□ 店舗外観と内装に統一感があるか
□ 開業日から逆算して余裕あるスケジュールが立てられているか

特に注意したいのが「初期費用を抑えすぎたことで機能性を損なってしまう」ケースです。

たとえば、空調を最低限にした結果、夏場に暑すぎて客足が遠のいたという失敗談もあります。

逆に、設計の初期段階でこれらのリスクに目を向けておけば、無駄な追加工事や営業停止のリスクを大きく減らすことができます。

よくある質問

店舗設計を初めて行う方にとっては、わからないことや不安が多いものです。

ここでは、設計相談の現場で特によく寄せられる質問に対して、わかりやすく回答します。

店舗設計にどれくらいの費用がかかりますか？

費用は「店舗の広さ」「業種」「内装のグレード」「構造の有無」などによって大きく異なりますが、目安として以下のようになります。

設計費用（図面作成や監理など）は、工事費とは別に総額の10～15％前後が相場です。

見積もり段階で「設計料がどこまで含まれているか」を必ず確認しましょう。

設計からオープンまでの期間は？

一般的なスケジュールは以下の通りです。

1. 1. 設計期間：1〜2か月（コンセプト・図面作成・打ち合わせ）
2. 2. 確認申請・工事準備：2〜3週間（場合によっては法的審査あり）
3. 3. 施工期間：1〜2か月（規模や業種による）

合計で3〜6か月程度を見込むのが一般的です。

ただし、物件探しや行政手続きに時間がかかる場合もあるため、余裕を持ったスケジュールを立てることが重要です。

自分で設計するのは可能ですか？

結論としては「可能な場合もあるが、現実的には専門家との協力が望ましい」です。

簡易的な改装やインテリア配置程度であれば、自分でイメージを固めることも可能です。

しかし、以下のような点で専門知識が必要になります。

• ・建築基準法・消防法などの法規対応
• ・給排水・空調・電気などのインフラ設計
• ・図面の作成と行政への申請業務
• ・施工業者との契約・現場監理

特に消防署や保健所の認可を必要とする飲食店や美容室では、建築士や設計事務所の関与が不可欠となるケースが多いです。

設計事務所と工務店の違いは？

設計事務所は「空間をデザイン・設計するプロフェッショナル」であり、工務店は「実際に工事を行う施工のプロフェッショナル」です。

設計と施工を一括で依頼する「デザインビルド型」の工務店もありますが、設計の自由度や透明性を重視するなら分離発注（設計事務所＋施工会社）もおすすめです。

古い物件を店舗として再設計できますか？

はい、可能です。ただし以下のような点に注意が必要です：

• ・構造体の老朽化確認（耐震・防水・傾きなど）
• ・用途変更に伴う法的対応（用途地域、建築基準法の適合性など）
• ・配管・電気容量の不足や劣化
• ・消防・バリアフリー対応の不足

たとえば築40年の木造物件をカフェにリノベーションする場合、耐震補強や排水経路の再整備、火気設備への消防対策が必要になります。

建物のコンディションや立地次第では新築よりもコストがかかることもあるため、事前調査と見積もり精査が必須です。

まとめ

店舗設計は単なる内装デザインではなく、ブランドの世界観を空間に落とし込み、機能性・快適性・法的安全性をバランスよく実現するための重要なプロセスです。

本記事では、店舗設計の基本的な流れから、コンセプトづくり、動線設計、図面の読み方、設備・構造設計、資格と専門家の役割、そして実際の設計事例までを体系的に解説しました。また、トラブル回避のためのチェックポイントや費用感、スケジュール感も紹介し、初めての方でも安心して設計に臨めるよう配慮しています。

これから店舗を開業しようと考えている方は、理想の空間を実現するためにも、早い段階から設計の視点を持つことが大切です。

「具体的な相談がしたい」「自分のイメージに合う設計が可能か知りたい」という方は、ぜひ一度、ReAirまでお気軽にご相談ください。

経験豊富な設計チームが、あなたの想いを形にするお手伝いをいたします。