業務用エアコン導入ノウハウ 2023.05.11

業務用エアコンの馬力とKwの違いを解説!1馬力は何畳の部屋に最適なのか

業務用エアコンの馬力とKwの違いを解説!1馬力は何畳の部屋に最適なのか

オフィスや店舗の空調能力を示す馬力とkW。この二つの単位の関係が分からず、何馬力がこの部屋に適しているのだろう?と、業務用エアコンの馬力という単位は非常にわかりにくい専門用語の一つです。

馬力という能力を正確に理解せず選定を誤ると、電気代の無駄や真夏や真冬に室内が快適にならない冷房不足という、経営に直結する失敗につながります。業務用エアコンは一度設置すると、簡単に入れ替えができません。

この記事では、この馬力とkWとは何か、換算方法、そして最も重要な広さと業種に応じた最適な馬力の選び方まで、専門的な知見に基づきロジカルに解説します。この記事を読み終える頃には、あなたは自信を持って業者と商談できる知識を身につけ、最適な業務用エアコンを選べるようになっているでしょう。

馬力とkWの違い

馬力とkWの違い

業務用エアコンのカタログを開くと必ず目にする馬力とkW。どちらもエアコンの能力を示す単位ですが、その起源や国際的な位置づけには大きな違いがあります。この違いを理解することが、エアコン選定の第一歩となります。

馬力の歴史と仕事率

業務用エアコンに使われる馬力(HP:Horse Power)は、実は非常に古い単位です。その起源は、蒸気機関を発明したジェームズ・ワットが、馬が単位時間にできる仕事量を基準に定めたことに遡ります。

馬力は、単位時間あたりに行える仕事の量、すなわち仕事率を表します。業務用エアコンの能力を馬力で表記するのは、エアコンが冷房・暖房を通じて熱を移動させるという仕事を行う機器であるため、そのパワーを示すのに適しているという歴史的な経緯があるからです。しかし、馬力という単位は国や分野によって定義が異なるため、後に国際的な統一単位であるkW(キロワット)が主流となっていきました。

kWの役割

kW(キロワット)は、電力や仕事率を表す国際単位系(SI)の単位です。家庭用エアコンの能力表示にはこのkWが使われています。

kWは、馬力と同様に仕事率を示す単位でもありますが、同時に電力を示す単位でもあります。これは、電気機器であるエアコンにとって、どれくらいの電気を使って、どれくらいの仕事(熱移動)ができるかを科学的、国際的に統一された基準で示すことができるため、非常に重要な単位です。現在、ほとんどの業務用エアコンのカタログや製品仕様書には、馬力表記と並んで必ずkW表記が記載されており、能力を比較する際の信頼できる基準として機能しています。

混同しやすいPSとの違い

馬力には、イギリス発祥のHP(Horse Power)と、ヨーロッパ大陸(ドイツやフランス)で使われていたPS(Pferdestärke、仏馬力)の二種類が存在します。

業務用エアコンで主に使われるのは、HP(英馬力)ですが、自動車の出力などで使われるPSも馬力と訳されるため、しばしば混同されます。しかし、1HP ≒ 0.7457kWに対し、1PS ≒ 0.7355kWと、厳密にはわずかに数値が異なります。業務用エアコンを選ぶ際には、このPSが使われることは基本的にありませんが、もしカタログなどでPS表記を見かけた場合は、エアコンの能力を示すHPとは異なる点に注意が必要です。一般的には、エアコンの能力比較においては、国際単位であるkWを基準に考えるのが最も確実でしょう。

馬力とkWの正確な換算方法

馬力とkWはどちらもエアコンの能力を示す単位ですが、異なる単位系であるため、正確な能力比較には換算が不可欠です。特に1馬力=何kWかを知ることは、業務用エアコン選定における必須知識です。

1馬力=2.8kWの根拠

業務用エアコンの能力換算において、最もよく使われるのが1馬力 = 約2.8kWという数値です。これは、冷凍トン(RT)という冷凍能力の単位を基準に算出されており、エアコン業界で慣例的に使用されている換算値です。

厳密に言えば、1冷凍トン = 3.517kWであり、また1冷凍トン ≒ 1.25馬力という換算式が成り立ちます。ここから逆算すると、1馬力は3.517kWを1.25で割った約2.813kWとなるため、エアコン業界では分かりやすく2.8kWを標準として用いているのです。この換算値を知っておけば、カタログに記載されているkW値から、そのエアコンが何馬力相当なのかを瞬時に判断できます。

kWから馬力への計算方法

カタログのkW表記を見て、それが何馬力に相当するのかを判断したい場合は、以下の簡単な計算式を使います。

馬力(HP) = kW  × 2.8

たとえば、あるエアコンの能力が5.6kWと記載されていた場合、5.6 ÷ 2.8 = 2馬力相当であることがすぐにわかります。逆に10馬力のエアコンの能力は、10 × 2.8 = 28.0kWとなります。この計算式を使えば、家庭用エアコンのkW値(例:4.0kW)を馬力に換算し、業務用エアコンとの能力差を正確に比較することも可能です。

【表】主要な馬力とkWの早見換算表

以下の表は、業務用エアコンの主要な能力帯をkWに換算した目安です。商談時や機種選定時にご活用ください。

馬力 (HP) kW(キロワット) kWから馬力を計算 (kW ÷ 2.8)
1.5馬力 4.0kW 1.43 HP (約1.5馬力)
2.0馬力 5.6kW 2.00 HP
3.0馬力 8.0kW 2.86 HP (約3.0馬力)
5.0馬力 14.0kW 5.00 HP
8.0馬力 22.4kW 8.00 HP
10.0馬力 28.0kW 10.00 HP

失敗しない最適な馬力の選び方

「1馬力=何畳、何坪対応」なのか

業務用エアコンの選定で最も失敗が多いのが、広さだけで馬力を決めてしまうことです。適切な馬力は、建物の熱負荷に応じて大きく変わるため、この知識がなければ能力不足やオーバースペックのリスクが高まります。

馬力選定が広さだけで決まらない理由

家庭用エアコンが〇畳用で選べるのに対し、業務用エアコンが馬力で選ぶ必要があるのは、室内の環境が千差万別だからです。

たとえば、同じ40平方メートルの広さの一般的なオフィス中華料理店を比較してみましょう。中華料理店では、調理機器からの高温の熱、排気口からの熱損失、客席の熱気など、オフィスにはない大きな熱源が存在します。そのため、オフィスと同じ馬力のエアコンを設置しても、中華料理店では冷房能力が完全に不足してしまいます。業務用エアコンの選定においては、広さという箱の大きさだけでなく、その箱の中でどれだけ熱が発生するかという使用環境を考慮することが絶対条件となります。

熱負荷(ヒートロード)の重要性

最適な馬力を算出するための鍵となるのが、熱負荷(ヒートロード)という概念です。熱負荷とは、室内の温度を快適に保つために、エアコンが処理しなければならない熱量の総和を指します。

熱負荷に含まれる主な熱源は以下の通りです。

  1. 外部負荷: 窓からの日射熱、壁や屋根からの外気温による伝導熱。
  2. 内部負荷: 人体から発生する熱、照明機器から発生する熱、OA機器(パソコンなど)から発生する熱。
  3. 設備負荷: 厨房機器(コンロ、オーブンなど)から発生する熱、給排気による熱損失。

熱負荷は、南向きの窓の大きさ天井の高さ従業員の人数によって細かく変動します。この熱負荷を正確に計算(空調負荷計算)することで、初めてこの店舗には何馬力が最適かというロジカルな結論を導き出すことができます。

業種別・面積別 必要馬力の目安

熱負荷の概念を踏まえた上で、実務で使える業種別・面積別の必要馬力の目安を以下に示します。

  • 低負荷業種(オフィス、衣料品店、ショールームなど):熱源が少なく、窓の遮熱対策がされている場合。
  • 中負荷業種(美容室、喫茶店、一般飲食店など):調理熱やドライヤー熱、人の出入りが多い場合。
  • 高負荷業種(厨房が広い飲食店、病院、サーバー室など):高温の調理機器や専門機器がある場合。
面積の目安(㎡/坪) 低負荷業種(馬力目安) 中負荷業種(馬力目安) 高負荷業種(馬力目安)
20㎡ / 6坪 1.5馬力 2馬力 2.5馬力
30㎡ / 9坪 2馬力 2.5〜3馬力 3馬力
50㎡ / 15坪 3馬力 4馬力 5馬力
80㎡ / 24坪 4馬力 5〜6馬力 8馬力

注意: 特に高負荷業種では、この目安からさらに大きな馬力が必要になる場合があるため、必ず専門業者による現地調査と負荷計算が必要です。

馬力選定が経営に与える影響

馬力選定が経営に与える影響

適切な馬力を選ぶことは、初期費用だけでなく、長期的なランニングコスト従業員の生産性に大きく影響します。馬力選定は、単なる設備投資ではなく、経営戦略の一部と捉えるべきです。

オーバースペックと能力不足の影響

オーバースペック(過剰な能力)のエアコンを設置した場合、初期費用が高くなるだけでなく、エアコンのON/OFFが頻繁に繰り返され、電気の無駄な消費が増え、ランニングコストが高くなる可能性があります。

逆に、能力不足のエアコンを設置した場合、設定温度に達するためにエアコンが常にフル稼働し続け、電気代が高騰します。さらに、最も大きな問題は、夏場に室内が涼しくならず、社員の集中力低下や顧客満足度の低下という形で、売上や生産性に悪影響を及ぼすことです。例えば、飲食店であれば暑い店として敬遠され、リピート率が下がる原因になりかねません。

適切な馬力が省エネと快適性向上に繋がる理由

適切な馬力選定は、エアコンが最も効率良く運転できる状態を作り出します。

エアコンは、能力に余裕を持ちつつも、設定温度に達した後に低い能力で安定運転(インバーター運転)を行う際に最も省エネ性能を発揮します。適正馬力であれば、冷房・暖房がすぐに効き、その後は無理なく運転を継続するため、ランニングコストが抑えられます。さらに、温度ムラがなく快適な環境が維持されるため、従業員の満足度と生産性が向上し、結果的に企業経営に良い影響をもたらします。

業者に伝えるべき熱負荷情報

正確な馬力を選定してもらうためには、業者に熱負荷に関する情報を過不足なく伝えることが不可欠です。

業者にこの広さには何馬力が必要ですか?と聞くだけでなく、以下の情報を必ず提供してください。

  1. 建物の構造: 天井高(特に高い場合)、窓の面積と方角(西日が入るか)、断熱材の有無。
  2. 利用人数と機器: 常駐する従業員の人数、使用するOA機器(パソコン、サーバー)の数。
  3. 熱源: 厨房機器の具体的な種類と数(ガスコンロ、オーブンなど)、常時開放される出入口の有無。

これらの情報を詳細に伝えることで、業者は空調負荷計算を正確に行うことができ、失敗のない最適な馬力(kW)のエアコンを選定してくれます。

よくある質問

業務用エアコンの選定に関して、多くの方が抱く実務的な疑問にお答えします。

Q1. 業務用エアコンは家庭用と比べて何が優れていますか

業務用エアコンは、家庭用と比べて主に出力(パワー)耐久性効率の3点で優れています。業務用は三相電源に対応し、家庭用の数倍から数十倍の能力を発揮します。また、長時間連続運転を前提に設計されているため、耐久性が高く、大きな空間でも均一に効率良く空調できる点が最大の強みです。

Q2. 1馬力はだいたい何畳に対応すると考えていいですか

1馬力は、約6畳から8畳(約3〜4坪)に対応すると考えるのが目安です。ただし、これは熱源が少ない一般的な事務所を想定した数値です。飲食店や、窓が多く日当たりが強い店舗などでは、4〜6畳程度にしか対応できない可能性があるため、〇畳用という固定観念は捨てて、必ず熱負荷の計算を専門業者に依頼してください。

Q3. 馬力の大きいエアコンを設置すると電気代は高くなりますか

馬力の大きなエアコンは初期費用が高く、最大消費電力も大きいですが、必ずしも電気代が高くなるわけではありません。能力が適切であれば、短時間で設定温度に達し、その後は能力を落として効率良く運転するため、能力不足のエアコンがフル稼働するよりも電気代が安くなるケースが多々あります。大切なのは、馬力そのものの大きさではなく、設置場所の熱負荷に対して馬力が適切であるかどうかです。

まとめ

業務用エアコンの能力を示す馬力(HP)kW(キロワット)は、それぞれ異なる歴史を持つ仕事率の単位です。両者の関係は1馬力 = 約2.8kWで換算され、能力を比較する際の基礎知識となります。

しかし、最適な馬力は、室内の広さだけでなく、熱負荷(ヒートロード)、すなわち、人の数、照明、厨房の有無など、熱源の多さによって決まります。選定を誤ると、ランニングコストの増大冷房不足を招くため、業種別の目安を参考に、必ず熱負荷の情報を業者に伝え、適切な能力を選ぶことが、省エネと快適性向上に直結します。

参考文献

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