換気設備 2025.12.19

動圧と静圧とは?全圧や風量と換気システムの関係について解説

動圧と静圧とは?全圧や風量と換気システムの関係について解説

ふとした瞬間に室内の換気が悪くなったと感じたことはありませんか?換気設備は稼働しているのに空気が淀んでいる、それは原因は目に見えない「圧力」のバランスが崩れていることにあるかもしれません。

特に空調換気システムの実務で避けて通れないのが、「動圧」「静圧」「全圧」という3つの圧力の概念です。これらは、空気を送るファンの能力やダクトの設計、ひいてはシステムの電気代や騒音レベルにまで深く関わっており、この3つの圧力が設計通りの快適な空気環境を実現できるかどうかの鍵を握っているのです。

この記事は、動圧・静圧・全圧についてと風量との関係を解説していきます。

動圧・静圧・全圧の圧力を構成する3要素

動圧・静圧・全圧の圧力を構成する3要素

空気の流れに伴う圧力は静圧・動圧・全圧の3種類で構成されており、それぞれが空気の異なるエネルギーの側面を表しています。

静圧とは

静圧とはダクトや配管の壁面に対して垂直に押しつけるように働く圧力であり、空気の密度に由来する位置エネルギーを意味しています。

たとえて言えば、水道のホースに水が満たされた状態で水が止まっていてもホースの壁を押し広げようとする「水圧」に近いものだと考えるとわかりやすいでしょう。実際の換気システムではダクトの摩擦、曲がり、そして特にフィルターや熱交換器などの機器を通る際の抵抗によって、この静圧が失われていきます。

動圧とは

一方、動圧は空気が流れる速さ(流速)そのものが持つ運動エネルギーを表す圧力です。流速の2乗に比例して大きくなる性質があり、空気の流れが速ければ速いほど動圧は急激に増大します。この動圧は空気の進行方向に対して作用するエネルギーであり、空気の流れを測定する際によく利用されます。

たとえば、ダクトの出口(吹出口)から勢いよく空気が噴き出すとき、その噴き出す勢いこそが動圧です。静圧がダクト内で失われる抵抗であるのに対し、動圧は空気の流れを維持するために必要なエネルギーと言い換えられるでしょう。実務では、この動圧を利用して空気の流速を測り、最終的な風量を算出するのです。

全圧とは

全圧は、先に述べた静圧と動圧を単純に足し合わせたものであり、ファンが空気に与えることができる圧力エネルギーの総和を意味しています。

全圧 (Pt) = 静圧 (Ps) + 動圧(Pv)

この全圧は換気システム設計においてファンの選定基準として極めて重要です。なぜなら、ファンはダクト内で失われるすべての静圧(抵抗)を克服し、かつ吹出口で必要な動圧(勢い)を生み出すだけのトータルなパワーを持っていなければならないからです。

もし、ファンの全圧能力がダクトの全圧損失に満たなければ、設計通りの風量を送ることは絶対にできません。逆に言えば全圧を適切に計算できれば、「このシステムにはどのくらいの性能のファンが必要か」が論理的に導き出されるわけです。

静圧と風量を考慮したファン選定

静圧と風量を考慮したファン選定

換気システムの実務で最も悩ましいのが、「どのファンを選べばいいか」という問題です。この問題をクリアするためには、静圧と風量(流量)が持つトレードオフの関係を深く理解することが不可欠になります。この関係を無視してファンを選定すると、後で「風量が足りない」と頭を抱えることになるでしょう。

静圧が高いとどうなる

静圧が高いとは、言い換えればダクトシステムがファンに対して大きな抵抗をかけている状態です。

たとえば、小規模店舗に高性能フィルターを組み込み、さらにダクトを細かく何度も曲げて設置しているとしましょう。この曲げることにより動圧に抵抗が増大(静圧損失)すると、ファンは設定された運転において、より多くの力を抵抗のために割かなければなりません。

その結果、ファンが本来供給できるはずだった風量(流量)は、物理的に減少してしまうのです。静圧と風量はシーソーのような関係にあり、静圧が上がると、もう風量は下がります。

実際には、抵抗が増えることでファンに想定外の負荷がかかり、異音や振動の原因となり最悪の場合、ファンの寿命を縮めてしまうことにもなりかねません。

静圧と風量の関係を示す曲線

ファンメーカーが必ず提供しているのが、「ファン特性曲線」(P-Q曲線)と呼ばれるグラフです。これは、特定のファンが「この静圧(抵抗)であれば、これだけの風量を出せます」という能力の限界線を示しています。まずダクトシステム全体の静圧損失を計算し、その静圧値で目標風量を達成できるファンをこの曲線から選定します。

静圧と風量の関係を示す曲線

しかし、ダクトシステム側の「システム抵抗曲線」です。このシステム抵抗曲線(静圧損失と風量の関係を示す、原点を通る二次曲線)がファン特性曲線と交わる点こそが、そのシステムが実際に運転される静圧と風量、すなわち実運転点となるのです。

システム抵抗曲線が設計値よりも上にある(抵抗が強い)場合、運転点は左下にずれてしまい、目標風量に達しないという結果を招きます。

換気システムの設計における静圧の評価方法

適切なファンを選定するためにはシステム抵抗、つまり静圧損失を漏れなく、過不足なく評価しなければなりません。換気設備の設計では、ダクトの直線部分の摩擦損失はもちろん、曲がりやT字分岐、ダンパー、吹出口・吸込口といったすべての部品で発生する静圧損失を、それぞれ専門の計算式やJIS(日本産業規格)に基づくデータを用いて積算していきます。

これらの抵抗値は空気の流速、つまりダクトの断面積に大きく左右されるため、流速の設定が静圧評価の初期段階で極めて重要になります。設計する際は全抵抗を積算して必要な全静圧を求め、その値でファン特性曲線をチェックし、ファンを選定する、という非常にロジカルな手順を踏むことが求められます。

換気システムの性能維持とトラブル対応

換気システムの性能維持とトラブル対応

ファンを適切に選定し、換気システムが稼働した後もその性能を維持し続けるためには、静圧と風量の関係が引き続き重要になります。特に「最近、換気が悪くなった」というクレームが入った際には、この静圧と動圧について調べると課題解決につながるかもしれません。

風量が不足する主な原因

システムが設計通りの風量を送れなくなる、風量不足のトラブルが発生した場合、その原因はシステム静圧の異常な上昇にあると考えられます。

最も多い原因はフィルターの目詰まりです。フィルターが塵や埃で目詰まりすると、そこを空気が通過するために必要な静圧損失が急激に増大します。前述したように、静圧が上がればファンの供給風量は低下するため結果として風量不足に陥ります。

さらに、ダクト内の清掃不足による埃の堆積やダンパーの意図しない閉鎖、あるいはシステムの経年劣化によるファンの性能低下も原因として考えられますが、まずはフィルターの差圧(前後の静圧差)を計測して判断を下すと良いでしょう。

現場での圧力・風量の計測

換気システムの実運転における静圧、動圧、そして流速を計測するために、主にピトー管とマノメーター(差圧計)を使用します。ピトー管をダクト内の適切な位置に挿入し、全圧と静圧を同時に計測することで、その差分から動圧を導き出します。

そして、動圧からベルヌーイの定理に基づいて流速を計算し、最後にダクトの断面積をかけることで、そのダクトの実際の風量が正確に算出されます。この実測値を設計時の風量や前回の計測値と比較することで、システム抵抗の変化、つまり”風量の異常”の原因を特定できるようになります。

ベルヌーイの定理と式

ベルヌーイの定理とはスイスの物理学者であるダニエル・ベルヌーイ氏が1738年にベルヌーイの法則を発見し、その定理は以下の式で求められます。

ベルヌーイの定理と式

VAVシステムと定風量システムの静圧制御の違い

空調・換気システムには、定風量システム(CAVシステム)と可変風量システム(VAVシステム)の二つの主要な方式があります。この二つの方式では、静圧の制御に対する考え方が根本的に異なります。

CAVシステムは常に一定の風量を送るため基本的には静圧も一定ですが、抵抗の増加(目詰まりなど)に弱いです。

一方、VAVシステムでは各ゾーン(部屋)の要求に応じて送る風量を変化させるため、ダクト内の静圧が変動しやすいという問題があります。この変動に対応するためVAVシステムでは、メインダクトの途中に静圧センサーを設置し、その情報に基づいてファンの回転数を制御するインバーターを常に動かします。

これは「末端の需要が減っても、ダクトの静圧を常に一定の目標値に保つ」という重要な役割を果たしており、これによって末端のVAVユニットが常に正確な風量を供給できるようになります。

よくある質問

静圧と風圧の違いは何ですか

静圧は先に解説したように、ダクトの壁を垂直に押しつける「空気の密度による圧力」を指します。一方、風圧という言葉は一般的には「風の流れそのものが物体に与える力」、つまり動圧とほぼ同じ意味合いで使われることが多いです。

「静圧が高いファン」はどのような場所に適していますか

静圧が高いファンとは、空気を送る能力が高いファンのことを指します。したがって、これらのファンはダクトの総延長が非常に長く複雑な大規模ビルの中央換気システムや高性能のHEPAフィルターなど極めて高い抵抗を持つフィルターを組み込むクリーンルームのような特殊な環境に適しています。

逆に抵抗が低い小さな換気扇で事足りる場所で高静圧ファンを使うと、過剰な風量と騒音、そして無駄な電力消費につながるためオーバースペックな選定は避けるべきです。

静圧が下がると電気代は安くなりますか

はい。一般的に言えば、静圧が下がるとファンが空気を送るために必要なエネルギーが減るため、消費電力は低下し結果として電気代は安くなります。これはファンを駆動する電動機の負荷が軽減されるからです。

たとえば、フィルターを新品に交換しただけで静圧が大幅に下がり、ファンのインバーターが回転数を落とした結果、電気代が目に見えて安くなる事例は多く存在します。しかし、単に静圧を下げれば良いというわけではなく、インバーター制御を用いて下がった静圧に合わせて風量を適正値に保つことが省エネと快適性の両立には不可欠です。

全圧の単位は何を使いますか

全圧、静圧、動圧の単位にはPaが国際的に最も広く使われています。過去には、気象や空調の分野でmmH2Oという単位も使われていましたが、現在の技術文書や設計図面、そしてJIS規格では、国際単位系(SI単位)であるPaへの統一が進んでいます。

まとめ

この記事では、以下の内容について解説しました。

  • ・静圧はダクト抵抗のバロメーターであり、動圧は空気の流れの勢い、全圧はその総エネルギーです。
  • ・静圧の上昇は、ファンの風量低下と直結するトレードオフの関係にあることを理解することが、ファン選定のすべてです。
  • ・現場での風量不足のトラブルは、フィルター目詰まりなどの静圧の異常上昇によるものがほとんどです。

室内でなんとなく感じる換気に対する違和感は、もしかすると静圧や動圧、風量に問題があるかもしれません。

換気設備について気になることやご相談したいことがあれば、お気軽にReAirにお問い合わせください。空調設備のプロが現地調査から最適な設計、機器のご提案をいたします。

参考文献

 

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