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テナントビルで店舗やオフィスを開業する際、多くの人が内装デザインや立地に目を奪われがちですが、建物の見えないインフラである電気容量の確認はそれ以上に重要です。電気容量が不足している物件を契約してしまうと、エアコンや調理器具が満足に動かせず、最悪の場合は数百万円の追加工事費が必要になることもあります。この記事では、電気容量の正しい計算方法や業種ごとの目安を分かりやすく解説します。
目次
電気容量の確認を怠ったまま物件を契約し、内装工事を進めてしまうと、店舗のオープン直前や実際の運営開始後に深刻な問題に直めぐり合うことになります。電気は目に見えない設備であるため、問題が発覚したときにはすでに手遅れになっているケースが珍しくありません。最悪の場合、予定していた機器が使えず、営業そのものが成り立たなくなるリスクを孕んでいます。
電気容量が不足している店舗で最も発生しやすいのが、夏の酷暑期や冬の極寒期における業務用エアコンの突然の停止です。業務用エアコンは家庭用とは異なり、起動時や高負荷での運転時に非常に大きな電力を消費するため、インフラの限界を超えやすくなります。
店内の温度調整ができなくなると、飲食店の客足は一気に遠のき、オフィスの従業員の生産性も著しく低下します。エアコンが動かないからといって設定温度を調整しても、根本的な供給電力量が足りていなければ、室外機のコンプレッサー(冷媒を圧縮する心臓部の部品)が過負荷によって安全装置が働き、停止してしまいます。
日常の営業中に、特定の機器を同時に稼働させた瞬間に店舗全体の電気が消えてしまうブレーカー遮断も、容量不足がもたらす代表的なトラブルです。飲食店ではランチタイムのピーク時に電子レンジやフライヤー、洗浄機を重ねて使った瞬間、美容室では夕方に複数のドライヤーと加湿器を同時にオンにした瞬間に発生します。
一度ブレーカーが落ちると、POSレジのデータが消失したり、クレジットカードの決済端末の接続が切れたりして、顧客に多大な迷惑をかけることになります。さらに、厨房の冷蔵庫や冷凍庫の電源が切れたことに気づかず、食材をすべて廃棄せざるを得なくなる二次被害も現場では頻発しています。
物件の契約を結んだ後に電気の容量不足が発覚した場合、テナント専有部内だけでなく、ビルの共有部にある電気の幹線(大元の太い配線)を新しく引き直す増設工事が必要になります。この工事は壁の解体や復旧を伴うため、多額の追加費用が発生します。
工期も数週間から数ヶ月単位で延びるため、予定していたオープン日に店を開けることができず、営業できないまま家賃だけを支払い続けるという最悪のキャッシュフローに陥ります。入居後にこのようなインフラのトラブルに巻き込まれないためにも、事前の計算と確認が鉄則となるのです。
テナントビルの電気契約や図面を読み解く上で、最初に理解しておかなければならないのが、電灯(でんとう)容量と動力(どうりょく)容量という2つの異なる電気の供給方式です。これらは流れる電圧の大きさが異なり、接続できる機器が明確に区別されているため、それぞれ個別に容量が足りているかを検証する必要があります。
電灯容量とは、主に一般の照明器具や壁面のコンセントから電源をとる小型の電気機器に使用される供給方式です。電圧は100V(ボルト)または200Vで、単相3線式(たんそうさんせんしき)という配線方法でテナント内に引き込まれるのが一般的です。
オフィス内のパソコンやコピー機、飲食店の卓上ミキサー、美容室のカルテ管理用パソコンなど、日常的に目にするほとんどのOA機器や事務用品はこの電灯契約の範囲で稼働します。電灯は個々の消費電力は小さくても、使用する台数が多くなりがちなため、全体の合計電力量が膨らみやすい特徴を持っています。
動力容量とは、主に対大型の業務用機器やモーターを内蔵した回転設備を効率よく動かすための供給方式です。電圧は200Vで、三相3線式(さんそうさんせんしき)という配線方法が用いられ、業界内では単に「低圧電力」や「動力(どうりょく)」と呼ばれます。
店舗用の大型エアコンや、飲食店の業務用冷凍冷蔵庫、製氷機、食器洗浄機、美容室のセット面に設置される高出力のドライヤーやデジタルパーマ機などがこれに該当します。動力は大きなパワーを安定して供給できる反面、基本料金が電灯に比べて高く設定されていることが多く、使用する機器の総容量に応じた正しい契約口径の選定が求められます。
電気の図面や見積書には、kW(キロワット)、kVA(キロボルトアンペア)、A(アンペア)という異なる単位が並び、初心者にとって混乱の原因になります。これらの読み方と意味は以下の通りです。
実務における換算のルールとして、単相100Vの電灯回路では「1kW = 1kVA = 10A」として簡易的に計算できます。一方、三相200Vの動力回路では、電圧の特性上、ルート3(約1.73)を掛け合わせる必要があるため、「1kW = 1kVA = A ÷ 1.73 ÷ 2(電圧)」という計算式を用います。これらの換算を誤ると、配線ブレーカーの選定ミスに繋がります。
候補物件を見つけた際、そのテナントで現在どれだけの電気容量が確保されているかを正確に把握するための手段は主に3つあります。不動産会社のマイソク(募集図面)に記載されている情報を過信せず、分電盤や図面、ビルの受変電設備から自らの目で確認する手順を踏まなければなりません。
最も手軽で確実な確認方法は、テナント専有部内に設置されている分電盤(金属製のボックス)の扉を開け、大元のブレーカー(主幹ブレーカー)の数値を直接目視することです。ここに設置されているサービスブレーカーや漏電遮断器の色や、表面に印字されている数字をチェックします。
例えば、電灯盤の主幹に「単3 50A」と書かれていれば、100V換算で最大10kVA(10,000W)までの電力が使えることを意味します。動力盤のブレーカーに「50A」とあれば、三相200Vの計算式を当てはめ、約17.3kWまでの大型機器が動かせると判断できます。ただし、古い物件では文字がかすれて読めないこともあるため、注意深く確認してください。
中規模以上のビルでは、電力会社から高圧(6,600V)で電気を一括受電し、ビル内のキュービクル(受変電設備)と呼ばれる高圧受電盤で100Vや200Vに落として各テナントへ分配する構造をとっています。この場合、個人のテナント盤を見るだけでは、ビル全体の電気の残り枠(空き容量)は分かりません。
ビル全体のトランス(変圧器)の容量に余裕がなければ、自社の専有部内のブレーカーを大きくしたくても、電力を分けてもらうことができません。これはビルの管理会社やビルメンテナンス会社が保管している設備台帳を確認しなければ判明しないため、物件選定の初期段階で問い合わせを行う項目となります。
現地での目視が難しい場合や、スケルトン物件でまだ分電盤が設置されていない場合は、ビルのオーナー側が保管している「竣工図(しゅんこうず)」や「電気設備プロット図」を取り寄せて読み解きます。図面の凡例にある引き込み太さや、幹線ルートの記載から容量を算出します。
図面には、電灯幹線、動力幹線として「〇〇sq(スケア:電線の太さの単位)」という表記があり、この太さによって流せる電流の上限(許容電流)が物理的に決まっています。配管の太さや幹線のスペックは物件ごとに完全に異なるため、大きな損失を避けるためにも、物件契約前の初期段階で専門の施工会社に同行してもらい、図面の検証と現地確認を入れることが確実な安全策となります。
飲食店は、あらゆる業態の中でも特に膨大な電気を消費するビジネスです。冷蔵・冷凍庫を24時間常時稼働させる必要があり、業態やメニュー、調理方法(ガスかオール電化か)によって必要とされる供給電力量の目安は大きく分岐します。
10坪〜15坪程度の小規模なカフェや喫茶店を開業する場合、必要となる電気容量の目安は、電灯が10kVA〜15kVA、動力を10kW〜15kW前後確保しておくのが実務上の標準ラインです。ガス主体の厨房であれば、この範囲内で十分にまかなうことができます。
カフェで電力を大きく消費するのは、客席のエアコンのほかに、厨房にあるエスプレッソマシンや高機能なコーヒーグラインダー、コールドテーブル(台下冷蔵庫)、製氷機です。特にお湯を瞬時に沸かすタイプのエスプレッソマシンは単体で2kW〜4kW以上の200V電源を必要とするため、電灯の容量不足に陥りやすい傾向があります。
20坪〜30坪程度の中規模な居酒屋や洋食レストラン、中華料理店では、必要とされる電気量は大幅に増大します。目安としては、電灯で20kVA〜30kVA、動力で20kW〜40kW以上のインフラ供給が求められるケースが一般的です。
厨房には、複数台のコールドテーブル、縦型の大型冷凍冷蔵庫、食器洗浄機、フライヤー、電子レンジが並び、客席数が増えることでエアコンの馬力(出力)も大きくしなければなりません。食器洗浄機は、内部の水をお湯に保温するためのヒーター単体で4kW〜6kWの動力を消費するため、ピーク時の同時稼働を想定したゆとりが必要になります。
ビルの管理規則や消防上の理由(地下街や高層階など)により、厨房でガスを一切使用せず、すべて電気でまかなう「オール電化」の店舗を構築する場合、必要となる電気容量はガス併用店舗の2倍から3倍以上へと膨れ上がります。
ガスコンロの代わりに導入する業務用IHクッキングヒーター(3口で9kW〜12kW等)や、電気スチームコンベクションオーブン、電気フライヤー、電気給湯器など、すべての熱源が電気に依存するためです。15坪程度の小さな店舗であっても、総容量で50kW〜80kW以上の引き込みが必須となるため、一般の雑居ビルでは容量が足りず出店できないケースが多々あります。
オフィス・事務所の電気容量は、飲食店に比べると水回りや熱源の設備が少ないため、比較的低く抑えやすい傾向にあります。基本的には「坪数あたりの標準的な消費電力」と「働く従業員の人数(パソコンやOA機器の台数)」から逆算して、無理のない容量が確保されているかを判断します。
従業員数が5人〜10人程度の、10坪〜20坪の小規模オフィス事務所の場合、必要となる電気容量の目安は、電灯で40A〜60A(4kVA〜6kVA)、動力で5kW〜8kW程度が標準的な供給水準となります。一般的なビルであれば、最初から備わっていることが多い容量です。
使用する機器は、デスクごとのノートパソコン、卓上モニター、複合機(コピー機)1台、共有の冷蔵庫、電子レンジ、電気ポット程度です。エアコンが電灯100V仕様の小型モデルであれば動力は不要な場合もありますが、業務用エアコンが設置されている場合は上記の動力容量が必須となります。
従業員数が20人〜50人規模となる、30坪〜80坪の中規模オフィスでは、電灯で15kVA〜30kVA(150A〜300A相当)、動力で15kW〜30kW以上の容量が必要になります。人数が増えることで、OA機器の総消費電力が一気に跳ね上がるためです。
特に見落としがちなのが、レーザープリンターや複合機が印刷を開始する瞬間の「突入電流」です。待機状態から一気に熱をかけるため、1台あたり1.5kW以上の電力を瞬間的に消費します。複数台の複合機が同時に動き出した際にブレーカーが落ちないよう、回路を deployment 段階で適切に分散させる設計が必要になります。
自社内に独立したサーバールーム(データセンターや基幹ネットワークラック)を設置する企業の場合、一般的なオフィスビルの基準値をはるかに超える特殊な電気容量の設計を行わなければなりません。サーバー機器は24時間365日、常に大電力を消費し続けるためです。
さらに重要なのは、サーバー自体が発する莫大な熱を冷却するための「サーバールーム専用エアコン」の動力容量です。このエアコンも24時間連続運転となるため、電灯・動力ともに通常のオフィスエリアとは完全に別系統の幹線で大容量の引き込み必要になります。ビルの夜間・休日停電(法定点検時など)の際のバックアップ電源(UPSや自家発電機)の設置スペースも含めて、ビル側との事前折衝が不可欠です。
テナント物件が自社のビジネスに適合しているかを最終判断するためには、感覚に頼るのではなく、実際の現場で導入予定の機器をリストアップし、ロジカルに合計電気量を算出する実務計算を行う必要があります。この計算手順を踏み、同時使用率や容量余裕率を正しく考慮することで、無駄な追加工事費用を防ぎ、安心安全な店舗運営が可能になります。
計算の第一ステップは、厨房機器、美容機器、OA機器、照明、空調など、新店舗に搬入するすべての電気機器の「仕様書(スペック表)」を確認し、消費電力を1台ずつリストへ洗い出す作業です。消費電力は通常「W(ワット)」または「kW(キロワット)」で記載されています。
機器によっては、単相100V、単相200V、三相200Vのどれに該当するか、製品ごとに電源仕様が分かれています。集計時は、これらを「電灯回路(100V/200V)」と「動力回路(三相200V)」の2つのカテゴリーに明確に仕分けして、それぞれの合計値を算出します。
リストアップした機器の消費電力を単純にすべて足し算した数値を「合計設備容量」と呼びます。しかし、実際の店舗運営において、店内のすべての照明、エアコン、電子レンジ、洗浄機、ドライヤーが「一分一秒の狂いもなく同時に最大出力で動く」ということは、基本的には起こり得ません。
そのため、実務計算では合計値に「同時使用率(需要率)」という係数を掛け合わせて、現実的な最大必要容量を算出します。一般的に飲食店の厨房では0.6〜0.8(60%〜80%)、オフィスでは0.5〜0.7程度を掛け合わせます。例えば、合計設備容量が40kWであっても、同時使用率0.7を考慮すれば、実際の契約容量は28kW(40×0.7)で足りるという計算が成り立ちます。
同時使用率を用いて算出した現実的な電気量に対して、そのままピッタリの数値で契約を結ぶのは危険です。ビジネスが軌道に乗った後に、「新メニュー導入のためにフライヤーをもう1台増やしたい」「従業員が増えたからデスクにパソコンとモニターを増設したい」となった際、余裕がなければすぐにインフラがパンクするためです。
そのため、算出した必要容量に対して、最後に10%〜20%程度の「容量余裕率(安全率)」を上乗せした数値を、最終的な物件の要求スペックとします。このゆとりを持たせておくことで、ブレーカーの経年劣化による誤作動を防ぎ、将来の設備増設にも柔軟に対応できる健全な店舗環境が整います。
物件の契約後に電気容量が足りないことが判明した場合、不足分を補うための追加工事を借主(テナント)の負担で行わなければなりません。工事の内容が専有部内だけで収まるか、ビルの共有部や大元の受変電設備まで及ぶかによって、発生する費用と工期は天と地ほどの差が生まれます。
テナント専有部まで引き込まれている大元の電線の太さ(幹線)には余裕があり、単に分電盤の中にあるメインブレーカーの容量口径を大きくしたり、回路を小分けに増設したりするだけの工事であれば、最も安価かつ短工期で処理が可能です。
この分電盤交換やブレーカー増設の費用相場は、約5万円〜15万円程度が一つの実勢目安となります。工事自体も半日から1日程度で完了するため、オープン側のスケジュールに大きな狂いが生じるリスクは低いと言えます。ただし、事前に電力会社への申請手続き(契約変更手続き)が必要になるため、数日間のタイムラグは発生します。
テナント内の分電盤だけでなく、ビルの1階や地下にある電気室(メイン配電盤)から、自社が位置するフロアの専有部までをつなぐ電線そのものが細く、新しい太い電線を引き直さなければならない「幹線増設工事」になると、費用は劇的に跳ね上がります。
この場合の費用相場は、ビルの階数や配管のルート長さによって変動しますが、約50万円〜200万円以上の莫大な追加コストがかかります。電線を通すための共有部のパイプ(EPS)に空きスペースがなければ、壁を貫通させるコア抜き工事や、外壁に配管を露出させる特殊な工事が必要になり、ビルオーナーや他のテナントとの調整が必要になるため、工期が一気に数ヶ月単位で延びるリスクがあります。
最悪のシナリオは、ビル全体の受電上限(キュービクルのトランス容量)がすでに100%満杯になっており、ビル全体の変圧器自体を大型のものに交換しなければ、1kWの電気すら新しく増やせないというケースです。
このキュービクル改修工事が必要になった場合、費用は数百万円から、規模によっては一千万円を超えることもあり、個人テナント一社の内装予算で負担できるレベルをはるかに超えてしまいます。ビル全体の停電を伴う大がかりな工事となるため、オーナー側の許可が下りない確率も非常に高く、結果として「物件を借りたのに、電気が足りないために出店を諦めて退去せざるを得ない」という壊滅的な失敗に直面することになります。
電気容量のトラブルは、業種によって「どの設備が原因で発生するか」のメカニズムが全く異なります。自社の業態特有の電気の使われ方の特徴(ピークの偏りや熱源の多さ)を正しく理解しておくことで、内装設計の段階から効果的な容量対策や回路配置の割り振りを考えることができます。
飲食店における最大の電気消費源は、客席の空調を除けば厨房内の「熱源機器」と「洗浄設備」です。特に、瞬間的に大量のお湯を沸かす、または高温を維持するタイプの電気設備がインフラを圧迫します。
表:飲食店における主要電気設備の消費電力チェック
| 設備・機器の名称 | 一般的な電源仕様 | 現場での同時使用リスク |
|---|---|---|
| 業務用食器洗浄機 | 三相200V(動力) | 内部ヒーター稼働時に4kW〜6kWを常時消費。ランチの片付け時にピークを迎える。 |
| 電子レンジ(業務用) | 単相200V(電灯) | 家庭用の倍以上の1.5kW〜2kWを消費。複数台の同時加熱は単相ブレーカー遮断の主因。 |
| 縦型4ドア冷凍冷蔵庫 | 三相200V または 単相100V | 常時消費電力は小さいが、24時間稼働のため基本ベースの電力を底上げする。 |
オフィスビルにおいて、電気のトラブルが発生する主犯格は「複合機(マルチコピー機)」と、冬場に足元に設置される「個人の電気ストーブ・セラミックヒーター」です。これらはすべて電灯100V回路から電源をとるため、特定のコンセント系統に負荷が集中しやすい特徴があります。
前述の通り、複合機は待機状態から印刷を開始する瞬間に大電流が流れます。また、女性従業員などの足元用に持ち込まれる小型の電気ヒーターは、1台あたり1kW(10A)前後の電力を消費するため、同じ島(デスクグループ)のコンセントから3人が同時に暖をとると、それだけで一般的なOAタップの推測上限(15A)や子ブレーカーの上限(20A)を瞬時に超えて、オフィスの一角が停電するトラブルを招きます。
美容室やヘアサロン、エステティックサロンが、全業種の中でも最も「引き込み坪単価あたりの電気消費量が激しい」業態の一つであることは、一般にはあまり知られていません。最大の原因は、セット面で同時に何台も稼働する「ヘアドライヤー」の存在です。
プロ用のヘアドライヤーは、1台あたり1.2kW〜1.5kW(12A〜15A)の電力を消費します。つまり、コンクリート1回路(20Aブレーカー)に対して、ドライヤーは2台同時に使うだけで限界を迎える計算になります。セット面が5席あれば、ドライヤーだけで最大7.5kWの電灯容量を消費するため、セット面ごとに完全に独立した専用の単独回路(専用コンセント)を壁内部に設計しておかなければ、お客様の髪を乾かすたびに店全体の照明が暗くなったり、ブレーカーが落ちたりする営業崩壊につながります。
ここまでのリスクや計算方法を踏まえ、実際にテナント物件の賃貸借契約書にハンコを押す最終段階の前に、必ずクリアにしておかなければならない実務上のチェック項目を3つに整理します。不動産の仲介担当者は電気の専門家ではないため、口頭の返事を信じて進めるのではなく、書面や事前折衝による確実なエビデンスを確定させることが鉄則です。
最初の項目は、現在のテナント内に引き込まれている電灯の最大アンペア数(kVA)と、動力の最大キロワット数(kW)を、書面(ビルの設備概要書)と現地の分電盤の双方で突合し、確定させる作業です。
この際、現在の容量だけでなく「電力会社との契約種別(主幹契約か、負荷設備契約か)」も確認します。居抜き物件の場合、前のテナントが電気代を安く抑えるために特殊な電子ブレーカーを導入して契約を絞っているケースがあり、名義変更した瞬間に使える電力量が実質的に減ってしまう落とし穴があるため、現在の正確な契約内容の書面確認が必要です。
現在の電気量が自社の必要計算値よりも不足していることが判明した場合、第2のチェックとして「このビルは、テナント負担で幹線を新しく引き増す工事(幹線増設)が物理的・規約的に可能であるか」をビルの管理会社へ公式に確認します。
確認時は、単に可能か否かだけでなく、ビル内の配管ルート(EPS)に自社用の電線を通す隙間が残っているか、また「工事区分はB工事(オーナー指定業者)になるのか、C工事(自社手配)になるのか」まで書面で回答を求めます。前述の通り、B工事になると工事費用が数倍に高騰するため、その指定業者の有無を契約前に確定させることが、予算オーバーを防ぐための鉄則となります。
前のテナントがオフィス(事務所)だった場所を、飲食店や美容室などの「電気を大量に使う業態」へ変更(用途変更)する場合、ビルインの電気の割り当てルール(管理規則)によって、1テナントあたりに配分できる電気の上限値が厳格に制限されているケースがあります。
「お金をいくら払っても、ビル全体のバランスを崩すためこれ以上の増設は認めない」という管理ルールのビルに当たってしまうと、テナント側の努力ではどうにもなりません。業種を変更して出店する場合は、ビルの用途制限規則を必ず規約で読み込み、自社の業態への電気の供給がビル側から許可されるかを、事前の行政協議や管理会社折衝を通じて確定させておかなければなりません。
電気インフラの確認不足や計算の甘さが原因で、多額の損失を出してしまったり、開業の計画が完全に頓挫してしまったりした、現場のリアルな失敗事例を紹介します。これらの事例を教訓として、自社の出店計画におけるリスクマネジメントを徹底してください。
あるアパレル店舗からカフェ業態への転換を計画した個人経営者が、人通りの多い路面店のスケルトン物件を契約しました。内装デザインも決まり、いざ厨房機器と業務用エアコンを発注して施工会社が現場に入った段階で、大元の動力量がわずか5kWしか引き込まれていないことが発覚しました。
カフェに必要な大型エアコンを動かすには最低でも12kWの動力が必要でしたが、ビルの配管が細く、幹線の引き替えには外壁のコア抜き工事を含めて150万円の追加費用が必要であることが判明しました。予算を使い果たしていた経営者は追加工事費用を支払えず、やむを得ずエアコンの馬力を極限まで落としたため、オープン後の夏の店内の室温が30度を超え、客が全く定着せずにわずか半年で閉店に追い込まれる大失敗となりました。
居酒屋の居抜き物件をそのまま引き継いで、新しく中華料理店をオープンさせたフランチャイズ加盟店の事例です。「前のテナントも飲食店だし、厨房機器もそのままあるから電気は大丈夫だろう」と過信し、事前の消費電力集計を行いませんでした。しかし、自社で新しく導入した高出力の電気餃子焼き機と業務用電子レンジを追加して営業を始めました。
オープン初日のディナータイム、客席が満席になり厨房がフル稼働した瞬間、大元の主幹ブレーカーが大きな音を立てて遮断され、店全体が真っ慢に暗くなりました。復旧させても、食器洗浄機が作動するたびにブレーカーが頻繁に落ち、調理がストップしてお客様への提供が1時間以上遅れる事態となり、初日だけで多くの顧客を失い、ブランドの評判に致命的なダメージを与える結果となりました。
あるデザイン会社が、従業員の増員に伴い、築40年のレトロな雑居ビルの1フロアを借りて新オフィスへ移転しました。クリエイター用の高性能なデスクトップPCや高画質モニターを40台並べ、サーバールームも構築する設計で内装工事を進めていました。着工後に電気の容量が足りないことが分かり、管理会社へ増設の申請を出しました。
しかし、管理会社からの回答は「ビルの受電トランス(キュービクル)がビル全体で限界を迎えており、これ以上の増設は1アンペアたりとも不可能です」という無慈悲な内容でした。サーバーはおろか、全員分のパソコンを同時に立ち上げることすらできないことが契約後に確定し、内装工事を途中で解約せざるを得なくなり、多額の違約金と、物件の保証金が戻ってこないという、会社にとって破滅的な損失を被る最悪の事例となりました。
テナントビルの電気容量に関して、店舗のオーナーさまやオフィス移転の担当者さまから、日々の現場の実務で特に多く寄せられる疑問についてお答えします。
テナント専有部内にある分電盤の主幹ブレーカー(大元の遮断器)の表面に印字されている数値を確認するか、ビルの管理会社が保管している設備概要書(竣工図面)を確認するのが最も確実です。分電盤を見る際は、赤や青のレバーがついたメインスイッチの表面に「単3 60A」や「3Φ 50A」といった表記がないかをチェックします。図面や現地の確認が難しい場合は、電気の検針票(請求書)に記載されている「契約決定口径」の欄を見ることで、現在の契約kW数やアンペア数を即座に把握することができます。
業態や物件の坪数によって必要となる総電力量は完全に異なるため、一概に一律の数値を断定することは困難です。実務上の大まかな目安として、15坪前後のガス併用カフェであれば電灯15kVA・動力15kW程度、30坪前後の一般的な居酒屋であれば電灯30kVA・動力30kW〜40kW以上が一つの標準ラインとなります。厨房をすべてIHなどの電気熱源で構築する「オール電化店舗」にする場合は、ガス併用店の2倍から3倍以上の容量(50kW〜80kW以上)が必要になるため、詳細な厨房機器リストを作成した上での積算計算が不可欠です。
坪数だけである程度の概算を出すことは可能ですが、最終的な物件契約の判断を坪数だけで行うのは非常に危険です。一般的なオフィスの電気設計では「1坪あたり約100W〜150W」を基準値として計算することが多いですが、これは標準的なノートパソコンと照明のみを想定した数値です。社内に大型の複合機を複数台設置する場合や、消費電力の激しいグラフィックボードを搭載したクリエイター用PCを並べる場合、またサーバーラックを常時稼働させる場合は、坪数からの逆算値では確実に容量不足に陥るため、実際の利用人数と使用機器の総数から計算を行う必要があります。
ビルの幹線配管の空きスペースや、ビル全体の受電設備(キュービクル)のトランス容量に余力がある場合に限り、後からの増設工事は可能です。ただし、分電盤の中身を触るだけの簡易な工事(費用5万〜15万円程度)で済むのか、共有部から電線を引き直す幹線増設工事(費用50万〜200万円以上)になるのかによって、発生するコストと工期は大きく異なります。また、ビル全体がすでに電気の満杯状態を迎えている場合は、どれだけお金を払っても物理的に増設が100%不可能なケースもあるため、必ず「契約を結ぶ前の段階」での確認が鉄則となります。
「現在のテナント専有部内の電灯・動力の引き込み容量(最大値)」と、「将来不足した場合にテナント負担で幹線増設工事を行うことが可能か」、そして「その際の工事はビル指定業者(B工事)になるのか」の3点を必ず書面で確認してください。口頭で「多分大丈夫です」と言われて契約を結んでしまうと、後から容量不足が分かった際に管理会社側は一切の責任を負ってくれません。業種を変更して出店する場合は、「自社の業態(例:美容室や重飲食など)への業種変更に伴う電気使用量の増加が、ビルの管理規則規則上許可されるか」の承諾も事前に取り付けておく必要があります。
テナントビルの電気容量の計算と確認は、デザインや立地といった目に見える要素の陰に隠れがちですが、店舗やオフィスの出店・移転プロジェクト全体の成否を根底から左右する、最もシビアな資金防衛・リスク管理のプロセスです。一度不動産契約書に捺印をしてしまった後からのインフラ確認やオーナー側への交渉は一切不可能となるため、物件の最終契約を結ぶ前の最も早い段階から、電気や空調の現場実務に精通した信頼できるプロのパートナーをチームに迎え入れ、現地調査と図面のチェックを進めていくことがスマートな進め方の鉄則です。
物件の築年数、建物の受電構造(一括高圧受電か低圧受電か)、幹線配管(EPS)の空き状況、そして何よりも「B工事・C工事の工事区分の境界線」によって、テナントが負担すべき追加工事の費用や交渉の難易度は、1案件ごとに完全に異なる形で分岐します。一度不動産契約書に捺印をしてしまった後からのインフラ確認やオーナー側への減額交渉は一切不可能となるため、予期せぬコスト高騰を防ぎ、オープン日までのタイムラインを最速で安全に駆け抜けるためには、物件の最終契約を結ぶ前の最も早い段階から、電気や空調の現場実務に精通した信頼できるプロのパートナーをチームに迎え入れ、現地調査と図面のチェックを進めていくことが、経営者として最大の利益を守るための、最もスマートな進め方の鉄則です。
ReAirでは、サロンや飲食店、オフィスの洗練された内装・空間デザイン(C工事)のご提案はもちろん、開業者さまや移転担当者さまが最も見落としやすく専門知識を必要とする「新物件の電気容量・動力幹線の事前現地調査・容量計算」から、「ビル管理会社との工事区分の明確な切り分け・交渉サポート」「指定業者(B工事)の見積書の妥当性精査・減額査定」「保健所や消防署の法的基準を満たした手戻りのない設備図面の作成」まで、ワンストップで一貫してオーナーさまの立場に立ってサポートしております。電気容量の不安をゼロにし、中長期のランニングコストを最小限に抑えた最高の店舗・オフィス環境を形にするために、まずは物件を検討されている初期の段階や、候補物件の図面がある段階から、いつでもお気軽にReAirまでご相談ください。
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