内装デザイン 2025.09.19

ABWとは?働き方のメリットやフリーアドレスとの違いを解説

ABWとは?働き方のメリットやフリーアドレスとの違いを解説

働き方が多様化する今、固定席のオフィスレイアウトでは対応しきれないと感じたことはありませんか?

テレワークやハイブリッドワークが進む中で、従来の「1人に1席」の常識は見直されつつあります。

そんな流れの中で注目されているのが「ABW(Activity Based Working)」です。

ABWは、業務の内容や目的に応じて最適な場所や環境を選んで働くという考え方。

単なる座席のフリーアドレスとは異なり、業務の質や従業員のウェルビーイング向上にも大きな影響を与えます。

この記事では、ABWの基本から導入効果、注意点、そして実際の導入ステップまでを初心者にもわかりやすく解説していきます。

ABWとは

ABW(Activity Based Working)は、「業務に応じた働く場所を自分で選ぶ」という働き方のコンセプトです。

固定席を持たず、執務・集中・会議・リラックスなど、業務の目的に適した空間で仕事を行うスタイルが特徴です。

オフィス環境の柔軟性を高め、組織の生産性や従業員満足度向上を目指す企業で導入が進んでいます。

ABW(Activity Based Working)の特徴

ABWは、単なる座席の柔軟化ではありません。

仕事の種類に応じた最適な環境を自律的に選択できることが最大の特長です。

たとえば、集中作業のときは静かな個室、チームでのディスカッションでは開放的なコラボスペース、電話やリモート会議では専用ブースといったように業務目的に応じて環境を使い分けます。

これにより、無駄な移動や会議室の混雑を避けられ、作業効率が高まります。

また、自分の判断で働く環境を選べる自由度が従業員の主体性やモチベーションにもつながる点がABWの魅力です。

ABWが注目される社会的背景

ABWが注目されるようになった背景には、いくつかの大きな社会的変化があります。

まず、テレワークやリモートワークの普及によって、オフィスの存在意義が再定義され始めました。

単なる「仕事場」ではなく、創造性や連携を生む「価値ある場」としての役割が求められるようになったのです。

さらに、Z世代を中心とした若年層では、働くことへの価値観が多様化しており、画一的な働き方よりも「自分らしさ」や「心地よさ」を重視する傾向があります。

ABWはこうした価値観と親和性が高く、企業の採用力強化や離職防止にもつながるとして関心を集めています。

その一方で、ABWを正しく理解せずに取り入れると混乱や不満の原因にもなりかねません。

ABWの本質は「空間」ではなく「働き方の思想」にあることを、まず押さえておく必要があります。

ABWとフリーアドレスの違い

ABWとフリーアドレスはどちらも固定席を設けない働き方として混同されがちですが、その目的や運用設計には明確な違いがあります。

フリーアドレスは「座席の自由」、ABWは「働き方の自由」に着目した概念であり、ABWの方がより包括的かつ戦略的なアプローチです。

フリーアドレスは座席、ABWは行動に着目

フリーアドレスは、オフィス内で自由に席を選べる仕組みを指します。

多くの場合、「出社頻度が減ったから固定席は不要」といったスペース効率の観点から導入されることが多く、実際の業務内容や社員の行動パターンまでは考慮されないケースもあります。

一方、ABWは単に「席を自由に選ぶ」ことが目的ではなく、「社員が最も効率的・快適に働ける場所を選べる」ことを目指します。つまり、働く「行動」そのものを中心に置いた設計です。

たとえば、静かな環境で集中して資料を作成したい人と、チームでホワイトボードを使ってアイデアを出し合いたい人では必要な空間が異なります。

ABWはその違いを尊重し、それぞれに最適なスペースを提供することに主眼を置いています。

ABWとフリーアドレスの比較一覧

比較項目 フリーアドレス ABW(Activity Based Working)
主な目的 座席の効率化・コスト削減 業務内容に最適な環境の提供
考慮される要素 出社頻度・座席数 行動特性・業務特性・心理的安全性など
代表的な運用内容 席の自由選択 空間ゾーニング・多様な作業スペース設計
自由度 中程度(選べる席に限界あり) 高い(働き方自体を柔軟に選べる)
空間設計の複雑さ 比較的単純 高度な設計と運用戦略が必要

組織文化や業務設計との整合性が重要

ABWの導入においては、企業の組織文化や業務特性に合った設計であることが極めて重要です。

たとえば、年功序列や縦割り文化が根強い企業では、自由な席選びや意見交換の文化が育ちにくく、ABWが機能しにくい傾向があります。

また、営業職や技術職のように「チームの連携」が重視される業務では、物理的な距離が心理的な隔たりを生むリスクもあります。

ABWを単なる空間のデザインとして導入するのではなく、「業務設計そのものと一体化」させることが鍵です。

そのため、ABWを導入する前には、組織の風土や業務プロセスを可視化し、実情に即したレイアウトやルールを検討する必要があります。

ABWは、空間の問題ではなく“働き方の改革”であるという意識が問われます。

ABWのメリットと効果

ABWを導入することで得られる効果は、単なる「席の自由化」以上のものがあります。

業務効率の向上や社員のウェルビーイング、組織の活性化など働き方改革の核心に迫るメリットが多数報告されています。

業務効率と集中力の向上

ABWの最大の魅力の一つは、「今の業務に最適な環境を選べる」ことで集中力と生産性が高まる点です。

たとえば、資料作成などの個人作業には静かなブースエリア、打ち合わせやアイデア出しにはカジュアルなミーティングスペースなど仕事の性質に応じた場を使い分けることで、自然と仕事の質が高まります。

固定席では実現しにくかった「シーンに応じた環境選択」が可能になることで、社員一人ひとりが自律的に働く姿勢を持ちやすくなり、結果として全体のパフォーマンスにも好影響を与えます。

現場からは、「音が気にならず集中できるスペースがあるだけで、仕事の進みがまったく違う」といった声も多く聞かれます。

日常業務に追われがちなビジネスパーソンにとって、こうした“選べる働き方”は大きな支えとなります。

従業員のウェルビーイング向上

ABWは、物理的な働く環境だけでなく、社員の心理的な快適さや心身の健康=ウェルビーイングにも大きく貢献します。

自分で「働く場所を選べる」ことが、主体性や自己決定感を生み、それがストレス軽減や満足度向上につながるからです。

さらに、気分転換がしやすい空間構成や観葉植物・自然光・音響設計といった“感性に訴える配慮”が施されたABWオフィスでは、精神的な安定や創造力の向上といった副次的効果も期待できます。

厚生労働省の調査でも「働く場所の選択肢を持つ社員はストレスレベルが低い」という傾向が示されています。

オフィスづくりを通して健康経営に寄与できるのは経営的にも大きな意味を持ちます。

自由度によるモチベーションの活性化

ABWでは自分で場所や時間を選び、自律的に働ける環境が整っているため、「やらされ仕事」ではなく「自分で動く仕事」へと意識が変化しやすくなります。

この自由度の高さが、社員のモチベーションを高める要因となるのです。

とくに若年層や創造性が求められる職種では、自由に思考できる場があること自体が重要です。

自由と責任がバランスよく設計されていれば、単なる“放任”にはならず、むしろ自律性と自己効力感を高める場となります。

企業側もモチベーションが自然に引き出される環境を整えることで、評価制度や管理体制に頼りすぎずとも成果につながる組織を目指せます。

ABWのデメリットと課題

ABWは魅力的な働き方ですが、すべての企業や業務に適しているわけではありません。

導入後の運用やマネジメントに課題が生じることも多く、実際には「うまく活用できなかった」という企業も存在します。

ここでは代表的なデメリットと対策すべきポイントを整理します。

管理・運用面の難しさ

ABWでは、社員が固定席を持たず、日々異なる場所で働くため、従来型のマネジメント手法が通用しにくくなります。

「誰がどこで何をしているのか」が把握しづらくなり、進捗管理や評価が難しくなるという声も少なくありません。

また予約システムや座席管理ツール、ITインフラの整備が不十分だと、「席の取り合い」や「希望スペースが空いていない」といった不満が蓄積されがちです。

運用ルールやシステム面の準備は、ABW導入成功の鍵を握ります。

現場を混乱させないためには、「行動ログを可視化できる仕組み」や「目的に応じたスペース配分の見直し」など、管理側の設計力が求められます。

コミュニケーションの分断リスク

自由に働ける反面、ABWでは部署内・チーム内の一体感が薄れやすく、偶発的な会話やアイデアの共有が減ってしまうことがあります。

特にリモートワークとABWを併用している場合、物理的に顔を合わせる機会が少なくなり、組織の一体感が損なわれる懸念も。

一方で、「意識的なコミュニケーション設計」を行えばこのリスクは軽減可能です。

たとえば、週1回の全社交流日を設けたり、チームごとの定例ミーティングを空間デザインに組み込んだりすることで、「人が集まる仕組み」を自然につくることができます。

ABWはただ席を自由にするのではなく、「つながりをどう保つか」の仕組みとセットで考えることが重要です。

適応できない職種・業務もある

すべての仕事がABWと相性が良いとは限りません。

たとえば、機密性の高い業務や電話応対が多い職種、物理的な資料や設備を使う業務などは常に同じ環境で作業する必要があり、ABWの柔軟性がかえって効率を下げる場合もあります。

また、人によっては「毎回座る場所を考えるのが面倒」「道具の移動がストレスになる」といった心理的な負担を感じるケースも。

特に、ルーティンワークが中心の職種や、環境の変化に弱い社員にとっては、ABWは逆効果になることもあるのです。

そのため導入前には対象となる職種・業務内容をしっかり見極め、必要であれば「ハイブリッド型」で固定席とフリーな席を併用する設計も視野に入れるべきでしょう。

ABWを導入するには

ABWを成功させるためには、単に「席を自由にする」だけでは不十分です。

制度導入前の準備から、導入後の運用ルール、社員のマインドセットまで、段階的かつ多面的な設計が求められます。

ここでは、ABW導入を円滑に進めるための基本ステップを紹介します。

社内ヒアリングと課題の可視化

最初のステップは現状の働き方における課題やニーズを洗い出すこと。

部署ごとの業務特性や社員の働き方に対する不満・希望を把握せずに、いきなりABWを導入してもうまく機能しません。

たとえば、「集中できる場所が欲しい」「チームで話し合える空間が足りない」など、日々の業務に潜む小さなストレスに注目するとデザインやレイアウトの方向性が見えてきます。

この段階ではアンケートやワークショップ形式での意見収集が効果的です。

部署や役職によって価値観は異なるため、できる限り多様な声を集めておくことが重要です。

運用ルールとIT環境の整備

ABWの実現には、働く空間だけでなく「使い方」を支えるルール設計とツール導入が不可欠です。

たとえば会議室やデスクの予約システム、個人ロッカー、クラウドでのファイル共有、ビジネスチャットツールなどが挙げられます。

物理的にどこにいても業務が継続できるようなITインフラが整っていなければ、ABWのメリットは半減してしまいます。

また、「集中スペースは静かに使う」「このエリアは会話OK」といった利用ルールを明文化し、社内で共有することも忘れないようにしましょう。

空間の自由度が高まる分、誰もが気持ちよく使えるための共通認識づくりが求められます。

小規模導入から始めて改善サイクルを作る

ABWは一度に全社へ導入するのではなく、まずは一部フロアや部署単位でテスト運用を行い、課題を検証する方法が効果的です。

たとえば、営業部門のみで試験的にフリーアドレス+集中ブースを導入し、運用ルールや社内の反応を観察します。

社員の使い方や意見を収集しながらレイアウトやルールをブラッシュアップしていくことで、現場に即した制度設計が可能になります。

この「試して、見直して、広げる」というプロセスを繰り返すことで、ABWは単なる制度ではなく「文化」として根付きやすくなるのです。

よくある質問(FAQ)

ABWはどんな業種に向いているのか?

結論から言えば、「業務の特性によって向き不向きがある」です。

創造性やチームワークを求められるIT企業や広告・デザイン業などはABWのメリットを享受しやすいといわれます。

一方で、ルーチン業務や機密性の高い作業が多い業種、常に固定機器を使用する職種などでは、従来の固定席のほうが効率的な場合もあります。

ただし、どの業種でも「部署ごとに柔軟に取り入れる」ことは可能です。業務分析を通じて、部分的に導入する選択肢も考慮してみてください。

フリーアドレスとどう使い分けるべき?

ABWは「自由な働き方全体の考え方」、フリーアドレスはその一手段です。

混同されがちですが、フリーアドレスは「席を自由にする仕組み」であり、ABWは「仕事内容に応じて場所・方法を柔軟に変える働き方」。

フリーアドレスはABWの一要素に過ぎません。たとえばABWでは「集中スペース」「コラボレーションゾーン」「リフレッシュ空間」など複数の用途別スペースを用意します。

単に「席を固定しない」だけでは、ABWの効果は出にくいという点に注意しましょう。

ABWが失敗する原因とは?

最も多い原因は「目的の不明確さ」と「運用設計の甘さ」です。

「おしゃれなオフィスにしたい」だけで導入すると、使いづらさや混乱を招きやすく、社員からも不満が出ます。

また、利用ルールやITツールの整備が不十分だと、ABWの意義そのものがぼやけてしまいます。

ABW導入にかかるコストはどれくらい?

オフィスの規模や既存設備の状況によって大きく変動します。

たとえば、ABW対応の家具・什器導入、集中ブースや可動式パーティションの設置、ITインフラの強化などが必要です。

小規模な導入でも数百万円、全社的な刷新では数千万円単位になることもあります。ただし、ABWは単なる「改装」ではなく「人材投資」です。

生産性の向上、採用ブランディング、離職率の低下など、長期的なリターンを見据えて考える視点が大切です。

働き方改革とどう結びつけるべき?

ABWは「働き方改革を具体化する手段のひとつ」として有効です。

政府が推進する働き方改革では多様で柔軟な働き方の実現が重要視されています。

ABWはその方向性と合致しており、「時間ではなく成果で評価する」「場所にとらわれない働き方を認める」といった改革と相性が良いのです。

ただし、単に「ABWを導入した=改革完了」ではありません。制度面・評価体制・社内文化と連動させることで、本質的な改革につながっていきます。

まとめ

ABW(Activity Based Working)は、働き方の多様化が進む現代において、単なる「自由なオフィススタイル」ではなく、業務内容や従業員の状態に応じて最適な場所・手段を選択できる働き方の設計思想です。

従来のフリーアドレスとの違いは「座席の有無」ではなく、「業務の質に着目した全体最適化」にあります。

導入すれば業務効率や集中力の向上、従業員のウェルビーイングやエンゲージメントの改善など、多くの効果が期待できます。

一方で、運用面での工夫やIT環境、社内の意識醸成が不可欠であり、導入には段階的な準備と対話が必要です。

まずは自社の業務スタイルや課題を整理し、必要であれば試験的な導入からスタートしてみると良いでしょう。

外部の設計会社やオフィスコンサルタントの力を借りて、自社らしいABWのかたちを描いていくことも有効です。

ABW導入をご検討中の法人様へ私たちは企業の課題や働き方に寄り添いながら、“使える”オフィスデザイン・ABW環境の構築支援を行っています。

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参考文献

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