内装デザイン 2025.07.21

スケルトン物件とは?居抜き物件との比較をわかりやすく解説

スケルトン物件とは?居抜き物件との比較をわかりやすく解説

オフィスや飲食店を開業しようと物件探しを始めると、よく見聞きするのが「スケルトン物件」や「居抜き物件」という言葉です。

なんとなく耳にしたことはあっても、それが何を意味するのか、具体的にどう違うのかを把握していない方も少なくないのではないでしょうか。

特にスケルトン物件は何もない状態から内装をつくるというイメージが先行し、「自由にできるけど費用が高そう」「飲食店には不向きなのでは?」といった疑問や不安を抱く方も少なくありません。

この記事ではスケルトン物件とはなにか、居抜き物件との違いや業種ごとの向き・不向き、内装工事の注意点や費用感、業態ごとのポイントまでを初めての物件選定に役立つようにわかりやすく整理して解説していきます。

スケルトン物件とは

スケルトン物件とは、建物の構造体以外の設備・内装がすべて取り除かれた状態の物件を指します。

天井・床・壁、トイレ・キッチン・照明などが撤去され、鉄骨やコンクリートの構造体がむき出しの「がらんどう」の状態で引き渡されます。

文字通り“スケルトン(骨格)”の状態というわけです。

この状態から、用途やデザインの希望に応じて自由に内装設計を行えることが最大の特徴ですが、その分、費用や工期の負担も大きくなる傾向があります。

原状回復とは

スケルトン物件の多くは、前テナントが退去時に原状回復義務を果たして返却された状態です。

原状回復とは、契約前の状態に物件を戻すことを指します。

ただし、「原状」といっても白い壁紙やフローリングのことではなく、“建物本来の素の状態”に戻すのが原状回復という点には注意が必要です。

たとえば、トイレや空調があったとしても、それが貸主による標準設備でなければ、撤去されてしまうケースもあります。

このため、スケルトン物件では、「水道・ガスの引き込みはあるか」「ダクトや電気容量の条件はクリアできるか」など、設備面での下調べが非常に重要になります。

居抜き物件との比較と選び方のポイント

スケルトン物件と居抜き物件は、内装の有無や初期コスト・自由度の面で大きく性質が異なります。

どちらが適しているかは、業種や開業フェーズ、重視したい要素によって変わるため、それぞれの違いと判断ポイントを整理しておくことが大切です。

スケルトン物件と居抜き物件の違い一覧

項目 スケルトン物件 居抜き物件
内装状態 全撤去(ゼロから施工) 設備・什器が残置されたまま
自由度 高い(自由設計可能) 低い(既存の内装に依存)
初期費用 高め(工事一式が必要) 低め(設備を活かせる)
工期 長め(設計から始まる) 短め(営業開始までが早い)
原状回復費用 契約内容により高額になりやすい 契約次第だが、設備撤去費用が必要な場合あり
想定業種 飲食・美容・オフィスなど幅広く対応 同業種での引継ぎが前提となる

このように、一見して居抜きのほうが楽に見えますが、自由度・改修性・長期的コストまで含めて検討することが重要です。

費用・自由度・リスクの視点で比較する

費用面だけを見ると、居抜き物件のほうが圧倒的に安く見えます。

しかしその設備が老朽化していたり、自社のコンセプトと合わない場合、改装費用がかえって高くなるケースもあります。

一方で、スケルトン物件は設備ゼロの状態からのスタートになるため、「トイレを設置するのに数十万円」「厨房に排気ダクトを通すのに工事が必要」など、見えづらいコストが発生しやすいという注意点もあります。

自由度においてはスケルトンのほうが圧倒的に高く、自社ブランドに合わせた世界観をつくりたい場合や設備のスペックを独自に設定したい場合に向いています。

コンセプト重視の店舗・オフィスには、最終的にスケルトンが適している場合が多いです。

自社の業態・事業フェーズに合わせた選定法

開業準備中の事業者にとって、「とにかく早く始めたい」「できるだけ初期コストを抑えたい」というケースでは、居抜き物件が現実的な選択肢になることも多いです。

特に、前テナントと業態が近い場合は、設備や動線がそのまま使えるため効率的です。

一方、店舗ブランディングを重視したい飲食業・美容業、独自レイアウトが求められるオフィス業態では、スケルトンの自由度がメリットになります。

また、短期的な利益よりも中長期的な設計・内装資産を重視したい場合も、スケルトンのほうが「思い通りに作り込める」分、後悔の少ない選択となりやすい傾向があります。

スケルトン物件のメリットとデメリット

スケルトン物件には空間設計の自由度が高いという大きな魅力がある一方で、費用や工事に関するリスクも少なくありません。

ここでは「メリット」と「デメリット」を分けて整理しながら、どのような業種に向いていてどのような人には注意が必要かを丁寧に見ていきましょう。

スケルトン物件のメリット

スケルトン物件の最大の利点は“ゼロベースで空間を設計できる自由さ”にあります。

内装や設備が一切ない状態からスタートするため、たとえば以下のような要望に応えやすくなります。

  • ・ブランドイメージに沿った内装デザインを反映できる
  • ・動線・席数・什器配置を機能優先で決められる
  • ・将来的な改装や設備追加にも柔軟に対応できる

特に飲食店や美容サロンのように「空間=サービス価値」になる業種では、内装の自由度は競争力そのものです。

またオフィスの場合も、企業文化や働き方に合わせたレイアウト設計がしやすく、ブランディングや採用力の強化につながる側面もあります。

スケルトン物件のデメリット

一方、スケルトン物件には初期コストの高さ・工期の長さ・設備計画の複雑さというデメリットがあります。

たとえば以下のような注意点が挙げられます。

  • ・トイレやキッチンの配管工事が必要になりやすい
  • ・空調・換気設備・電気容量の新設が発生しやすい
  • ・設計~施工~引き渡しまでに1〜3ヶ月かかることもある

また、初めての店舗開業や移転では想定外の追加工事や設備不足により予算オーバーが発生するリスクも少なくありません。

そのため、「工事前の設備要件チェック」「内装業者との事前すり合わせ」「スケジュールの余裕確保」など、プロジェクトマネジメント的な視点が求められるのが実情です。

スケルトン物件が向いている業種

スケルトン物件が特に向いているのは、以下のような業種や業態です。

業種・業態 適性理由
飲食店(ブランド志向) 厨房動線・空間演出を自由に設計したい
美容院・サロン デザイン重視、独自性のある空間が必
ベンチャー企業のオフィス 企業文化を表現したレイアウトが必要

“空間が差別化の源泉になる”タイプの事業には、スケルトン物件は非常に相性が良いといえるでしょう。

スケルトン物件が向かない業種

逆に以下のようなケースでは、スケルトン物件は慎重な検討が必要です。

  • ・小規模開業で資金が限られている
  • ・業態が汎用的で、特別な内装が必要ない(例:事務所、倉庫)
  • ・開業までの時間を極力短縮したい

このような場合には、居抜き物件や軽微な改装で済む物件のほうがリスクを抑えやすいといえます。

とくに初めて事業を始める方には、費用と手間のバランスに注意が必要です。

スケルトン物件に必要な内装工事とは

スケルトン物件は構造体のみの状態で引き渡されるため、営業開始にあたって必要な工事をすべて自分たちで整える必要があります。

ここでは、内装工事の基本構成と、特に見落とされやすい「キッチン・トイレ」まわりの注意点についても丁寧に解説していきます。

基本の内装工事項目と設備

スケルトン物件では、以下のような設備や仕上げ工事が一から必要になります。

  • ・床・壁・天井の仕上げ(フローリング・塗装・クロスなど)
  • ・空調(エアコン・換気扇など)の設置
  • ・電気設備の配線工事・コンセントの配置
  • ・照明器具の選定・取り付け
  • ・給排水設備の整備(必要に応じて上下水道の引き込みも)
  • ・インターネット・電話回線などの配線
  • ・サイン・ファサードの工事(店舗の場合)

すべてを自由に選べる反面、「何が必要で、どれだけ費用がかかるか」が見えにくいのがスケルトンの難しさでもあります。

特に建物の元々の仕様によっては、設備を新たに引き込むための“インフラ整備工事”が発生し、費用がかさむこともあります。

キッチン・トイレの新設と注意点

スケルトン物件ではトイレやキッチンといった“水まわり”が存在しないケースが大半です。

これらを新たに設ける場合、次のような工程とコストが必要になります。

  • 床下の配管設置・勾配確保(建物の構造次第では難航する)
  • ・給湯設備・給水ポンプの設置(飲食店では特に重要)
  • ・グリーストラップ・排気ダクト工事(飲食業では必須)
  • ・トイレブースの間仕切り・排気ファンなどの設置

たとえば、キッチンを一から造作するだけで50〜150万円前後かかることも珍しくありません。

トイレも排水経路や設置位置の制限により、「予定していた場所に設置できない」などのトラブルが起こることがあります。

こうした水まわり工事は事前の現地調査と専門業者のアドバイスをもとに、早い段階から計画を立てることが肝心です。

飲食店・オフィス別の工事内容の違い

スケルトン物件を活用する際、業種ごとに必要となる内装工事の内容や優先順位は大きく異なります。

特に飲食店とオフィスでは、法律上の要件も施工の工数も異なるため、初期段階での整理が不可欠です。

飲食店向けスケルトン物件の内装工事

飲食店の場合、衛生・排気・防火など複数の法令を満たした設備設計が求められます。代表的な工事は以下のとおりです。

  • ・厨房の床・壁の耐水・耐熱仕上げ(タイル貼りなど)
  • ・グリーストラップ(油脂分離槽)の設置
  • ・給排水の勾配調整と配管新設
  • ・排気・給気ダクトの設計と外部への排気確保
  • ・防火区画・換気扇の設置(防火地域の場合)
  • ・冷蔵庫・ガス機器など設備機器の電源設計
  • ・客席と厨房を分ける間仕切り・通路設計

飲食業は保健所の営業許可を得るための設備条件も厳格であり、施工前に各自治体の要件確認が必須です。

また、重飲食(焼き肉・ラーメンなど)と軽飲食(カフェ・サンドイッチなど)では排気条件やダクト径が異なるため、自分の業態にあった設計を進めましょう。

オフィス向けスケルトン物件の内装工事

一方、オフィスは飲食店ほど厳しい設備要件はありませんが、業務効率や快適性を高めるための“機能設計”が重要になります。

主な工事は以下の通りです。

  • ・床仕上げ(カーペット・OAフロアなど)
  • ・会議室・ワークスペースのゾーニング設計
  • ・照明計画(色温度や明るさ)とスイッチ配線
  • ・空調・換気設備の増設や分岐
  • ・コンセント・LAN・電話線の位置設計と配線
  • ・受付・応接室・ロッカーなど機能別空間の造作

とくにフリーアドレス制やオンライン会議を前提にした設計が主流となっており、音漏れ対策やネットワーク環境整備にもコストがかかる傾向があります。

業種によって異なるコスト・設備要件

業種別の主要工事項目とコスト傾向

項目/業種 飲食店 オフィス
必須設備 厨房・排気・グリストラップ等 空調・照明・配線
規制・許可 保健所・消防法など厳格 比較的ゆるやか(防火程度)
工事期間 長め(1.5~3ヶ月) 比較的短い(1~2ヶ月)
予算目安(坪) 20~40万円以上 10~25万円前後
設計の自由度 中~高(排気経路などに制限) 高(自由にレイアウト可能)

このように、業種ごとの設備要件を正しく理解したうえで内装設計を進めないと後から大幅な修正が必要になるケースもあります。

必ず初期段階で、用途に応じた工事内容の整理とコスト試算を行いましょう。

スケルトン物件の費用相場と見積もり

スケルトン物件は内装工事をすべてゼロから行うため、初期費用の把握と見積もりの読み解きが極めて重要です。

費用感を見誤ると、事業開始前に資金がショートするリスクもあるため、ここでは「坪単価の目安」「見落としがちな工事項目」「見積もりを取る際のコツ」を具体的に解説します。

内装工事の坪単価と費用感

スケルトン物件の内装工事費用は、業種や仕様の違いにより大きく変動しますが以下が一般的な目安です。

業種別・内装工事費用の坪単価目安

業種・用途 内装費用の目安(坪単価)
飲食店(軽飲食) 20〜35万円/坪
飲食店(重飲食) 30〜50万円/坪
美容院・サロン 25〜40万円/坪
オフィス 10〜25万円/坪
小売店・物販店 15〜30万円/坪

※上記には厨房機器や什器費用は含まれていません。設備のグレードや店舗のこだわりによってはこれを超えることも珍しくありません。
※こちらの金額はあくまで参考値です。

また、スケルトン物件では「看板・ファサード」「サイン工事」などの外装も自由度があるため、外構費が別途必要になる点も想定しておきましょう。

解体・インフラ工事など見落としやすい費用

見積もり時に意外と見落としがちなのが、内装以外の“周辺工事”に関わるコストです。たとえば、

“周辺工事”に関わるコスト
  • ・躯体調整工事(壁・床の不陸調整や補修)
  • ・給排水管の延長・引き直し工事
  • ・電気容量の変更申請・幹線工事
  • ・ダクトの外部排気設計(ビルの構造次第で高額化)
  • ・消防・防火対応の工事(スプリンクラーや感知器)

これらは「最初の見積もりに含まれていない」ことも多いため、追加費用として後から請求されるケースもあります。

したがって、見積もりを依頼する段階で“ビルの設備仕様に応じた調査”をしてもらうことが必要不可欠です。

見積もりを取る際に整理すべき要件

スケルトン物件で見積もりを依頼する際には、以下の項目をあらかじめ整理しておくと精度の高い見積書が得られます。

  • ・希望する業種・営業内容
  • ・平面図やゾーニングのイメージ
  • ・想定する席数・人員数(設備容量の目安になる)
  • ・トイレ・厨房・空調などの希望設備
  • ・ビルの規模・設備図面(貸主から取り寄せ可能な場合も)

これらがあるだけで、設計者・施工業者が現実的な提案をしやすくなり、追加見積もりのリスクを減らすことにつながります。

よくある質問

スケルトン物件はなぜ安く貸し出されるのか?

設備が何もなく、借主がすべて負担する前提だからです。

貸主側は、内装や設備を整備せずに貸し出すことでコストを抑え、その分賃料を安く設定することができます。

借主にとっては自由に作り込める反面、初期費用は高くなりやすいという特徴があります。

キッチンやトイレがない場合どうすればよい?

内装工事で新設する必要があります。スケルトン物件では、これらの水まわりが存在しないことが一般的です。

給排水の位置や勾配によっては設置に制限が出る可能性もあるため、事前の現地調査が不可欠です。

ビル構造によっては、床をかさ上げしたり、別階から配管を引き回すなどの対応が必要になることもあります。

スケルトンと居抜きのどちらが儲かる?

短期なら居抜き、長期ならスケルトンが有利です。

居抜きは初期投資を抑えられるため、すぐに営業開始したい場合や、短期での撤退も視野に入れている場合に向いています。

一方スケルトンは自由度が高く、長期的にブランドを育てていく事業や、リピート重視の業態では投資対効果が出やすい傾向があります。

内装費を抑えるコツはあるか?

優先順位の明確化と素材・設計の工夫が鍵です。

たとえば「目に入る範囲だけ高品質に」「バックヤードは簡易仕上げにする」など、全体を均一に仕上げるのではなく“使い分け”を意識すると効果的です。

加えて什器の中古活用やパーテーションの既製品利用なども、コストカットにつながります。

まとめ

スケルトン物件とは設備や内装が一切ない「建物の素の状態」で貸し出される物件であり、自由な空間設計が可能な一方、内装工事の負担や初期費用が大きくなるという特徴があります。

居抜き物件と比較した場合、費用・工期・設備自由度のバランスが異なるため、自社の業態やフェーズ、ブランディングの方針に合わせて選択することが重要です。

また、スケルトン物件では「トイレやキッチンの新設」「電気・水道・空調などの基礎工事」から始める必要があるため、内装業者と打ち合わせを行い、現地調査をふまえた現実的な見積もりを取得するようにしましょう。

とくに飲食店や美容業、ベンチャー企業のオフィスなど“空間そのものがサービス価値を担う業態”においては、スケルトン物件の自由度が大きな武器になります。

一方で、限られた予算や早期オープンを重視したい場合には、居抜き物件も合理的な選択肢になります。

お客様の事業に最適な選択をするためには、「理想」と「現実」を丁寧にすり合わせ、必要な準備と調査を怠らないことが何より大切です。

物件選定や内装に関するご相談がある方はスケルトン物件に詳しい設計・施工会社に一度相談することで、不安や迷いがクリアになるはずです。

ReAirではスケルトン物件から飲食店、美容室、オフィスまで幅広い業種に対応した内装提案をご提供しています。

「スケルトン物件から希望するデザインを実現したい」という方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。

参考サイト

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